プレスリリース
温室効果ガス発生量が少なく窒素除去効果も高い炭素繊維担体を利用した畜舎汚水浄化処理技術を開発

情報公開日:2015年1月16日 (金曜日)

ポイント

  • 強力な温室効果ガスである一酸化二窒素の家畜ふん尿汚水処理からの発生を9割抑制する技術を開発しました。
  • この技術は、微生物が付着する炭素繊維担体を現行の活性汚泥処理1)施設に追加投入するだけで導入でき、さらに従来法よりも処理水中の窒素を大幅に低減できます。
  • 今後は、実規模装置での検証と運転条件の最適化を進めます。

概要

  • 農研機構は、家畜ふん尿の汚水浄化処理過程から排出される一酸化二窒素を抑制する技術を開発しました。
  • 一酸化二窒素は、二酸化炭素の300倍の温室効果があるとされる強力な温室効果ガスであり、地球温暖化防止のために、発生抑制技術の開発が急務です。
  • 開発した技術は、炭素繊維担体に微生物を付着させて汚水を浄化するもの(以下、炭素繊維法という。)で、付着した嫌気性微生物が汚水中の亜硝酸イオンおよび硝酸イオンを低減させて一酸化二窒素の発生を抑制します。
  • 養豚廃水を用いた検証では、処理中の一酸化二窒素の発生は従来の活性汚泥法と比較して90%以上低減され、また、処理後に残存する亜硝酸イオンおよび硝酸イオンの濃度も90%以上低減されました。
  • 生物化学的酸素要求量(BOD)2)を指標とした有機物の処理能は、活性汚泥法と同等以上であるとともに、高い窒素除去能力を持っています。
  • 現在は実規模装置での試験を開始しており、今後、運転条件の最適化を行っていく予定です。

予算:農林水産省委託プロジェクト研究(気候変動に対応した循環型食料生産等のための技術開発)


詳細情報

研究の社会的背景と研究の経緯

家畜排せつ物の主要な処理方法である堆肥化・汚水浄化の過程からは一酸化二窒素(N2O)やメタン(CH4)といった温室効果ガスが発生しており、地球温暖化防止のために、それらのガス発生の抑制技術を開発することが急務となっています。特に、一酸化二窒素は強力な温室効果を有し、家畜排せつ物起源の温室効果ガス排出量の1割以上が浄化処理過程から排出されています。

汚水浄化処理過程において、一酸化二窒素は硝化反応3)と脱窒反応4)が起きた場合にその一部が一酸化二窒素となって放出されることが知られています。そこで、汚水中に含まれるアンモニウムイオンを窒素ガスに転換する過程で発生する一酸化二窒素を削減する処理方法を開発するために、活性汚泥処理とは微生物反応の形態が異なる生物膜法に着目し検討を行いました。

研究の内容と意義

  • 汚水中の溶解性窒素はほとんどがアンモニウムイオンとして存在しており、浄化処理においてはこのアンモニウムイオンは好気条件下で硝化反応により亜硝酸イオンまたは硝酸イオンに転換されます。続いて嫌気条件下で脱窒反応により窒素ガスに転換されて大気中に放出されることで、処理水中の窒素が除去されます。しかし、上記の反応が抑制され、亜硝酸イオンや硝酸イオンが処理水中に蓄積した場合に一酸化二窒素が多く放出されることが知られています(図1)。
  • 従来法である活性汚泥処理では、曝気槽5)内の大部分が好気状態となっていることから、汚水中のアンモニウムイオンは硝化反応によって硝酸イオンに転換されますが、その大部分が脱窒されずに硝酸イオンのまま処理水中に残存しやすい状態となっています。この影響により、活性汚泥法では一酸化二窒素が放出されやすい状況になっています(図2)。
  • 一方、新たに開発した炭素繊維法は、炭素繊維担体(写真1-3)を曝気槽に投入することにより、炭素繊維の表面に形成される生物膜の表層では好気的な反応である硝化が起き、生物膜の深層では嫌気的な反応である脱窒反応が起こります。アンモニウムイオンから窒素ガスへの転換がスムーズに行われることで、硝酸イオンや亜硝酸イオンが蓄積することなく処理が行われるため、過度の一酸化二窒素の放出が回避されると考えられます(図2)。
  • 炭素繊維法は特別な施設を新たに設置する必要がなく、既存の活性汚泥処理施設への導入が可能です。試験では曝気槽容積1m3当たり炭素繊維として0.2kgが取り付けられた担体を活性汚泥処理施設の曝気槽に投入することにより、一酸化二窒素を9割以上(活性汚泥法に対して)削減することが可能でした(図3)。また、温室効果ガスを二酸化炭素等量に換算した結果、大幅に温室効果ガスを削減できることが示唆され、活性汚泥法では725 g-CO2 eq/m3/dayであったのに対し、炭素繊維法では42 g-CO2 eq/m3/dayとなりました。
  • 炭素繊維法のBOD(有機物)処理能は活性汚泥法と同等以上であるとともに、硝酸イオンや亜硝酸イオンの液中残存量は顕著に少ないため、汚水浄化機能の向上も期待できます(図4)。

今後の予定・期待

地球温暖化防止のために温室効果ガス削減技術の社会実装に向けて、今後は、試験装置のスケールアップを行い、実用化レベルでの温室効果ガス削減量の把握を進めていく予定です。

試験データに基づいてスケールアップさせた場合のコストは、母豚100頭規模の畜舎の汚水処理施設への導入を想定した場合、炭素繊維担体の原材料費として30万円程度と、炭素繊維担体の加工及び処理槽への設置費用が必要になります。設置する炭素繊維担体の量は排出される汚水中窒素濃度に依存することから、汚水の性状に合わせて適切な量の炭素繊維担体を設置すること等により、導入費用を抑えられる可能性があります。なお、他の窒素除去手法として有機炭素源(メタノール)添加による硝酸性窒素除去方法がありますが、新たに脱窒専用の処理槽を増設しなければならないことに加え、年間数十万円以上になるメタノールの購入費用が必要となります。これに対して炭素繊維法は処理槽の増設を必要としないため初期の導入費用を1/3程度に抑えることができ、また基本的にランニングコストを必要としません。

本技術は温室効果ガスの発生量を少なくできますが、同時に窒素除去効果も高いことから、排水基準の将来的な規制強化にも対応する技術として、畜産農家に普及することが期待されます。

  • 発表論文
    Mitigation of nitrous oxide (N2O) emission from swine wastewater treatment in an aerobic bioreactor packed with carbon fibers, Takahiro YAMASHITA, Ryoko YAMAMOTO-IKEMOTO, Hiroshi YOKOYAMA, Hirofumi KAWAHARA, Akifumi OGINO, Takashi OSADA, Animal Science Journal, In Press, 2015

用語の解説

1) 活性汚泥処理
活性汚泥法は、汚水を浄化する方法の1つであり、一般的に広く用いられている方法である。微生物等が凝集してできたフロック状で沈降作用がある活性汚泥を利用し、これと汚水が含まれた状態で空気の吹込みによって微生物による有機物の酸化分解が起こり、汚水が浄化される手法である。当方法により汚水を処理することを活性汚泥処理という。

2) 生物化学的酸素要求量(BOD)
20°Cの培養条件で水中の分解可能な物質を微生物反応により分解させ、5日間で消費された酸素量をmg/L単位で表したものである。水質汚濁の度合いを示す指標の1つとなっている。

3) 硝化反応
硝化細菌と呼ばれる独立栄養細菌がアンモニウムイオンを硝酸イオンに酸化する反応をいう。この反応は通常、アンモニア酸化細菌と亜硝酸酸化細菌が担っており、硝化細菌はその総称である。

4) 脱窒反応
脱窒細菌と呼ばれる独立栄養又は従属栄養細菌が、硝酸イオンを、大気成分の78%を占めている安定した窒素ガスに還元する反応をいう。

5) 曝気槽
活性汚泥処理において、空気の吹込みを行う槽であり、エアレーションタンクとも呼ばれる。活性汚泥と汚水の混合液を空気の吹込みによって攪拌し、微生物反応による浄化を促す槽である。

図1.浄化処理における一酸化二窒素発生

図2.現行の活性汚泥法と炭素繊維法における窒素転換のイメージ

図3.汚水浄化処理による温室効果ガス発生量

図4.活性汚泥法と炭素繊維法の浄化処理性能

写真1.炭素繊維担体の拡大写真

写真2.炭素繊維担体の曝気槽への投入風景

写真3.炭素繊維担体の曝気槽への投入後