プレスリリース
養鶏がもたらす環境負荷はもっと小さいことが判明

- 最新データで窒素排せつ量の減少が明らかになり、 温室効果ガス排出量算定値はこれまでより35%少ない値に -

情報公開日:2017年3月 6日 (月曜日)

ポイント

  • 現行の、鶏1羽が1日に排せつする鶏ふんに含まれる栄養素量を表す「排せつ量原単位1)」を最新のデータを用いて推定し直しました。
  • 現行の排せつ量原単位は、最新のデータで推定したものより、窒素の排せつ量が過大に見積もられていることがわかりました。
  • 最新の値を用いると、鶏ふん中の窒素に由来する温室効果ガスの排出量は、現行の値と比べて35%少ないことが分かりました。
  • 今回推定した排せつ量原単位は、国の新たな基準として採用される予定です。

概要

  1. 農研機構は、鶏(ブロイラーおよび採卵鶏)1羽が1日に排せつする栄養素量等を表す「排せつ量原単位」を最新のデータを用いて推定し直しました。
  2. 現行の排せつ量原単位は、20年前のデータに基づく値であったため、現在の値とはかい離しており、窒素の量が過大に見積もられていました。
  3. 新たな窒素排せつ量原単位と鶏の飼養羽数から、我が国における鶏排せつ物由来の温室効果ガスである一酸化二窒素(N2O)2)排出量を算出したところ、温室効果ガス排出量は現行の値で算出した場合より、年間64万トン少ないことが分かりました(35%減少、二酸化炭素量に換算した算定値)。
  4. 新たな窒素の排せつ量原単位は「日本国温室効果ガスインベントリ報告書3)」に採用されることが決定し、今後我が国において、鶏排せつ物がもたらす環境影響評価の算定に用いられます。
  5. 今回の新たな推定で、排出される窒素が少なく、温室効果ガスもこれまでの推定より少ないことが明らかになったことから、20年前と比べ現在の養鶏では、環境への負荷が大幅に低減されていることが明らかとなりました。
  6. 新たな栄養素排せつ量原単位は、堆肥等家畜ふん尿由来肥料の適切な施肥につながるとともに、地域における栄養素の需要と供給のバランスや国内窒素フローの適正な評価に役立ちます。

予算

本研究は、JSPS科研費24780264および15K18776の助成を受けました。

研究の背景と経緯

家畜ふん尿に含まれる窒素、リン、カリウムは、作物にとって必須の栄養素であり、肥料として有用である一方、環境に悪影響を及ぼす原因にもなります(図1)。特に、ふん中の窒素からは、排せつ物処理過程で温室効果ガスである一酸化二窒素(N2O)や主要な悪臭物質であるアンモニア4)が発生します(図1)。特に家畜ふん尿由来のN2Oは、我が国の農業由来の温室効果ガスの18%を占めており、家畜ふん尿の適切な管理・使用は気候変動対策の面からも重要となっています。

家畜ふん尿に含まれる窒素、およびリン、カリウムの量は、排せつ量原単位という値を基に推定され、これらの栄養素がもたらす環境影響評価に用いられています。しかし、現行の原単位が策定されてから約20年が経過し、特に鶏において、実態との乖離が大きくなっていることが予測されました。そこで農研機構は、日本飼養標準・家禽(2011年版)等最新のデータを用いて鶏(ブロイラーおよび採卵鶏)の排せつ量原単位の推定を行いました。

研究の内容・意義

  1. 飼料要求率、卵生産量等の生産性に関わるパラメ-タから摂取飼料および生産物に含まれる栄養素を求め、鶏の排せつ量原単位を以下の式で推定しました。
    (飼料から摂取した栄養素量)-(生産物*中の栄養素量)
    *生産物:ブロイラーは鶏体、採卵鶏は卵
    推定された排せつ量原単位のうち、窒素については、従来の値よりブロイラーで29%、採卵鶏で33%減少しました(図2)。 窒素の排せつ量が減った原因は、育種による鶏の改良や栄養・飼養管理技術の改善により、鶏において窒素の利用効率が高まったため、と推定されます。
  2. 新たな窒素排せつ量原単位と、鶏の飼養羽数から、我が国における鶏ふん由来のN2O排出量を算出したところ、N2O排出量は現行より年間64万トン(35%)少なく推定されました(二酸化炭素量に換算した算定値)(図3)。その結果、我が国の家畜ふん尿由来のN2O排出量は9%減少しました。また同様に、鶏ふん由来のアンモニア排出量の算定値は現行の値より36%少ないことが明らかになりました。
  3. 新たな窒素排せつ量原単位は「日本国温室効果ガスインベントリ報告書」に採用されることが2017年2月決定し、今後、我が国において、鶏ふんがもたらす環境影響評価の算定に用いられます。
  4. これらの結果から、20年前と比べて現在の養鶏では、排せつされる過剰な窒素を減らすことにより、排出する温室効果ガスや臭気・酸性化物質が低減し、環境への負荷が大幅に小さくなっていることが明らかとなりました。

今後の予定・期待

  1. 改定した窒素排せつ量原単位は、今後我が国において、鶏ふんがもたらす環境影響評価の算定に用いられます。その結果、2017年以降の各種報告書では、近年は過大に見積もられていた鶏ふん由来のN2O排出量が適正に評価されます。さらに今後、各地域における窒素やリン等栄養素の循環バランスや環境負荷が適正に評価され、堆肥等家畜ふん尿由来肥料の適切な施肥につながると期待されます。
  2. さらに栄養素排せつ量原単位を低減するには、窒素については飼料におけるアミノ酸バランスの改善、リンについてはフィターゼ5)の利用等が有効と考えられます。
  3. 今後、ウシやブタ等、他の畜種でも排せつ量原単位の改定を行っていく予定です。

発表論文・資料

  1. Akifumi Ogino, Hitoshi Murakami, Takahiro Yamashita, Motohiro Furuya, Hirofumi Kawahara, Takako Ohkubo, Takashi Osada. 2017. Estimation of nutrient excretion factors of broiler and layer chickens in Japan. Animal Science Journal. DOI: 10.1111/asj.12674.

用語の解説

1) 排せつ量原単位
家畜・家禽が1日・1頭あたりでふん尿そのものや窒素・リン・カリウムなどの栄養素をどれだけ排せつするか、を表す値です。窒素排せつ量原単位は、国や地域における排せつ物由来の一酸化二窒素(N2O)やアンモニアの排出量を算出するために用いられます。また、窒素、リン、カリウムの排せつ量原単位は、地域の農業における栄養素の需要と供給のバランスや栄養素フローを評価する用途でも用いられます。

2)一酸化二窒素 (N2O)
二酸化炭素(CO2)の約300倍の温室効果を持つ強力な温室効果ガスであり、オゾン層破壊の原因物質でもあります。化学肥料や家畜排せつ物に含まれる窒素から発生するため農業が最大の人為発生源となっており、削減が求められています。

3)日本国温室効果ガスインベントリ報告書
我が国の温室効果ガス排出量を部門別に集計し、全国排出量を算定して毎年国内外に向け周知している報告書です。前年度から温室効果ガス排出量が増減したという報道は、この報告書が基になっています。環境省の監修の元、国立環境研究所により編集されています。

4)アンモニア
家畜ふん尿に含まれる窒素から発生する主要な悪臭物質です。また、揮散後に大気中で硝酸等の窒素酸化物へと酸化されるため、生態系の酸性化にも寄与します。

5)フィターゼ
植物性飼料原料中のリンの多くはフィチン態リンという有機態の状態で存在しており、そのフィチン態リンから無機態のリンを切り離す酵素です。豚・鶏では、フィチン態リンはほとんど消化・吸収されないためふん中に排泄されますが、無機態にすることによりリンを利用できるようになります。

参考図・表

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