プレスリリース
農業用パイプラインの破裂を予防する装置を開発

- 既存のマンホールに設置可能 -

情報公開日:2016年12月 9日 (金曜日)

農研機構
旭有機材株式会社

ポイント

  • 農業用パイプラインに使用されている小口径の塩化ビニル管(以下、塩ビ管)の疲労破壊1)を予防するため、圧力の変動を緩和する装置(圧力変動緩和装置)を開発しました。
  • 既に設置されている農業用パイプラインの空気弁用のマンホール位置に設置できます。
  • 本技術を適用することにより、農業用パイプラインの破裂事故を減らすことが可能となります。

概要

  1. 農業用パイプラインの小口径の塩ビ管における破裂事故の多くは、疲労破壊が原因で、給水栓の開け閉めの操作によって管内の水圧が瞬時に変動したり、圧力が繰り返し変動することによって生じます。
  2. そこで農研機構と旭有機材株式会社は、塩ビ管の疲労破壊を予防する、圧力変動を緩和する装置を開発しました。
  3. 疲労破壊を抑制することで、破裂事故を少なくし、これまでの補修費を大幅に削減できます。例えば、弁閉塞後の管内圧力の最大振幅を26%減少させる装置を導入することで、1MPaの水圧を繰り返し受け続ける塩ビ管(口径300A)の疲労破壊を起こすまでの期間は、4倍長くなります。
  4. 本装置は、既に設置されている農業用パイプラインの空気弁用のマンホール位置にも設置が可能であり、比較的容易に施工可能です。

関連情報

予算:運営費交付金
特願:出願中

背景と経緯

農業用水を送水するために地中に敷設された「農業用パイプライン」は、日本全国で総延長7,500kmに達しています。農業用パイプラインの破損事故は年間約6,700件起きていると推定され、破損事故を軽減するための抜本的な技術開発が望まれています。破損事故の半数以上は、支線の水路にある小口径管(口径450mm以下)で発生しており、その多くは、塩ビ管で生じています(図1)。事故は、水管理を行う際の給水栓の開け閉め操作によって管内の圧力が瞬時に変動したり、圧力が繰り返し変動する際に、管の内壁面に大きな引っ張り応力が繰り返し作用することで生じます。
そこで農研機構と旭有機材株式会社は、塩ビ管の疲労破壊を予防する、圧力の変動を緩和する装置を開発しました。

内容・意義

  1. 圧力変動緩和装置の構造と原理
    本装置は空気室2)空気弁3)オリフィス4)、および穴あき逆止弁5)から構成されており(図2図3)、支線水路にある既存の装置である空気弁だけの装置と比べ、圧力の変動に対して以下の緩和効果を持ちます。
    1. (1) 弁の閉塞により急激な管内圧力が発生した際には、空気室内の空気が、上昇した管内圧力で圧縮されて"緩衝材"として働くことにより管内圧力の上昇を抑制します。
    2. (2) 弁の閉塞により大きな圧力が発生した際には、管内の水は順方向、逆方向に向きを変えながら流れていますが、水がオリフィスと穴あき逆止弁を繰り返し通過する際にエネルギーを損失することによって、圧力の変動を速やかに低減します。
  2. 本装置の圧力緩和効果
    室内実験において、本装置による管内圧力の変動緩和効果が確認されました(図4)。具体的には、下流端の弁閉塞後の管内圧力の最大振幅が26%減少します。その振幅は10秒後には52%減少して、速やかに低減します。
  3. 破壊リスクの低減
    疲労破壊を抑制することで、破裂事故を少なくし、これまでの補修費を大幅に削減できます。例えば、Vinsonの実験による式を適用して、300Aの塩ビ管に1MPaの水圧が繰り返しかかる場合に破壊に至る回数を試算したところ、通常1,540,000回で壊れるところ、本装置を設置することで6,740,000回(約4倍)まで壊れません。
  4. 施工の特徴
    この圧力変動緩和装置は、農業用パイプラインの約400mごとにある空気弁を設置するマンホール位置に、既存の空気弁の代わりに設置可能です。ただし、空気室の容量は、管内圧力や管内平均流速、および管路の口径などによって決定する必要があり、既往の空気弁を設置するマンホールよりも大きな空間が必要です。導入にあたり、従来の空気弁と比較して現時点では、φ200で約80万円、φ300では約180万円のコスト増となります。(マンホールの工事費を除く。)

今後の予定・期待

塩ビ管が壊れにくくなることで、これまでの補修費を大幅に削減できる技術を開発しました。今後は、製品化に向けて2017年度に畑地かんがい用の支線管路において現場での整備が想定されるコストに収まるかどうかを検証します 。

用語の解説

1)疲労破壊
繰り返しの応力によって小さなき裂が発生し、それを起点として、徐々にき裂が大きくなる破壊現象です。

2)空気室
鋼製の容器内に空気を格納した構造をしており、パイプラインの弁を閉塞して流れを止めるときに大きな圧力(水撃圧)が発生するため、空気を圧縮して最大圧力上昇値を低減する装置です。

3)空気弁
管内に蓄積された空気を管の外へ排除するための弁です。

4)オリフィス
管内の通水断面を局所的に絞る輪です。この輪を管内の水が通過するときに局所損失が発生します。

5)穴あき逆止弁
管内の流れの逆流を許さない逆止弁の弁体中央に穴を貫通させ、少流量の逆流を許容させる弁です。通常の逆止弁に比べて緩やかな閉塞となります。

6)脆性破壊(下記の図1)
「ぜいせいはかい」と読みます。き裂が瞬時に大きなって破壊する現象です。破壊後は大きな変形が生じます。

参考図

図1
図1 塩ビ管の破裂事故の状況
(左)パイプラインの破裂により陥没した道路。
(右)管の破損状況。まず中央部の疲労破壊が起き、その後周辺に脆性破壊6)が進んだと推定されます。

図2
図2 圧力変動緩和装置の構成

図3圧力変動緩和装置(実験装置)
図3 圧力変動緩和装置(実験装置)

図3
図4 本装置による水圧の変動緩和効果
農研機構内にある管径100mmの室内実験施設で、ピエゾ水頭約7m(水頭1m=9.8kPa)、管内平均流速1.5m/sの流況時に下流端の弁を1秒間で閉塞し、管内の水圧を測定しました。本装置の設置により下流端の弁閉塞後の管内圧力の最大振幅が26%、10秒後の振幅は52%減少しました。