プレスリリース
(研究成果) 農業水利施設の管理を地図上に記録して効率化

- ベテラン管理者のノウハウを見える化 -

情報公開日:2017年9月12日 (火曜日)

ポイント

  • 分水ゲート1)開水路2)などの農業水利施設の管理ノウハウを地図上に記録し参照できる「水利施設管理台帳システム」を開発しました。
  • 本システムを利用して記録をデータベース化することで、施設の管理ノウハウや老朽化状況、ゲリラ豪雨などの災害記憶を将来に継承でき、日常の管理にも役立てられます。
  • 操作は、現場の状況をモバイル機器を使って写真やメモで記録したり、専用の台帳フォームに情報を入力するだけと簡単で、ノウハウの伝承が困難な小規模の土地改良区3)での管理にも適しています。

概要

  1. 農業用水路等の農業水利施設では、水路の水位観測や分水調整等の日常の維持管理を担う職員の高齢化が進み、管理ノウハウの将来への継承が困難になっています。
  2. そこで、農研機構では、農業水利施設の管理ノウハウや日々の管理日誌を記録し、地図上で参照できる「水利施設管理台帳システム」を開発しました。
  3. 本システムでは、農業水利施設の様子を現場で位置情報付きの写真や音声、メモ情報としてモバイル機器上のアプリに記録し、メールを送信すれば、事務所のパソコンソフトに自動で登録され、地図上で確認できます。
  4. また、パソコン上の台帳フォームで、モバイル機器から受信した情報を整理し、データベース化できます。このデータは市販の表計算ソフトなどに出力可能で、モバイル機器でも確認できます。
  5. 本システムにより、施設の補修や更新の計画を立てるために施設の設置年度を参照したり、土地改良区が持っている施設管理のノウハウを次の世代に継承したりすることができ、農業生産に欠かせない農業水利施設の管理に役立てることができます。
  6. 本システムは、さらに現場での実証試験を重ね、今年度中に5万円程度で販売する予定です。

関連情報

予算:戦略的イノベーション創造プログラム(内閣府)インフラ維持管理・更新・マネジメント技術(2014-2018)

社会的背景と経緯

我が国の農業水利施設を管理する土地改良区は全国におよそ4,700組織ありますが、その7割が受益面積300ha未満の小さな組織で、職員の高齢化が進んでいます。施設の老朽化も進む中、施設の機能を保全し長寿命化を図るためには、施設の適切な管理や、異常・劣化の兆候をとらえ、補修や更新計画に結びつけていくことが必要です。このようなノウハウは経験や勘として職員に蓄積されていますが、高齢化が進む中、将来への継承が困難になっています。
このため、農研機構では、農業水利施設を管理するためのノウハウを見える化し、将来に引き継ぐ技術の開発に取り組みました。

研究の内容・意義

作業手順

  1. 本システムは、1現場で施設の状況を記録するモバイル専用アプリ「iVIMS(アイビムス)4)」、2iVIMSで記録した情報をパソコン上で編集するGIS5)ソフト「VIMS(ビムス)6)」、3iVIMSで記録した情報を施設の諸元7)や管理ノウハウとして整理しデータベース化する台帳フォームで構成されます(図1)。
  2. モバイル機器のGPS機能を使い、現場で位置情報付きの写真や音声、メモをその場で専用アプリ「iVIMS」を使って記録(オンサイト入力)します。
  3. 記録したデータをメールで事務所のパソコンに送り、GISソフト「VIMS」の地図上で確認します。
  4. 施設の諸元や管理方法を専用の台帳フォームに入力します。台帳には、関連付けたい写真を挿入するボックスがあり、位置情報付きの写真を挿入すると、台帳自身にも位置情報が付与されます。

特長

  1. 台帳フォームのデータをエクセルなどの表計算ソフトに出力できます。表計算ソフトから台帳フォームを印刷でき、他の文書作成ソフトへのデータのコピーも可能です。
  2. シェイプファイル形式に出力し、本システムで作成したデータを他のGISで利用できます。
  3. 現場での入力を簡単にする一方で、台帳への入力は事務所での作業としました。手作業での入力過程をあえて含めることにより、更新時期の迫った施設の存在や耕作放棄地との関係を調べる必要性に気づくなど、データベース活用のきっかけが生まれると考えています。

今後の予定

  1. 現在、文化財としても貴重な三重県の立梅用水土地改良区の農業水利施設において、本システムを使った実証試験を行っています。
  2. 農業水利施設の日常管理に加え、ゲリラ豪雨などの災害履歴や補修履歴などの情報共有に利用できます。
  3. システムは、今年度中に共同開発者である株式会社イマジックデザインより5万円程度で販売する予定です。
  4. マニュアルについても今年度中に公開する予定です。

用語の解説

1)分水ゲート
農業用水を各水路に分ける施設を分水工と称し、そのうち、ゲートを設け各水路に流れる分水量を調整する施設を分水ゲートと称します。分水ゲートは分水量の調節にノウハウを要します。

2)開水路
パイプライン(管路)に対し、水面を持った水路を開水路と称します。

3)土地改良区
土地改良法に基づき地域の農業者により組織された団体であり、その地域における農業用排水施設の整備や区画整理等の土地改良区事業を実施するほか、土地改良施設の維持・管理、および農業用水の配水等を行っています。

4)iVIMS(アイビムス)
iVIMSは、3次元地理情報システム「VIMS」のデータを、そのままモバイル機器にコピーし、現地での入力や確認作業に用いることができます。管理業務をさらに強化、効率化するアプリケーションです。

5)GIS
Geographic Information System:地理情報システム。位置情報をキーに、地形、土壌、ほ場、農地など様々なデータを重ねて分析する他、ネットワーク分析など空間解析を行います。かつては研究者など一部の専門家が用いるツールでしたが、近年、Web-GISやクラウド型GISのように多様なユーザとニーズを想定した機能提供が進み、行政機関や基礎自治体への導入も進んでいます。

6)VIMS(ビムス)
VIMSは農研機構と株式会社イマジックデザインが共同で開発した3次元地理情報システムでPC上で動作します。既存のGISに比べて安価であり、「水利施設管理台帳ツール」のようなユーザの使いやすさに配慮したツールをアドオンすることができます。

7)施設の諸元
施設の工種、構造、規格、延長等。

発表論文

遠藤和子・友松貴志・高橋幸照・大塚芳嵩, 水利施設管理台帳システムの開発にみる産学官民連携の技術開発への期待,農業農村工学会誌, Vol.85, No.6,pp.19-22,2017.

参考図

図1

お問い合わせなど

研究推進責任者
農研機構農村工学研究部門 研究部門長 山本德司

研究担当者
同 地域資源工学研究領域 上級研究員 遠藤和子
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