プレスリリース
(研究成果)ため池防災支援システム

- 地震・豪雨時に、ため池の決壊危険度をリアルタイムに予測 -

情報公開日:2018年9月11日 (火曜日)

農研機構
株式会社コア
株式会社オサシ・テクノス
株式会社複合技術研究所
ニタコンサルタント株式会社

ポイント

地震・豪雨時に、ため池の決壊1)危険度をリアルタイムに予測し、予測情報をインターネットやメールを通じて防災関係者に配信するとともに、被災したため池の状況を全国の防災関係者に情報共有する災害情報システムを開発しました。ため池決壊による人的被害の防止と、迅速な災害支援に役立ちます。

概要

南海トラフ地震を想定した
「ため池」の決壊危険度予測

東日本大震災などの大地震、九州北部豪雨や平成30年7月豪雨などの豪雨災害で、ため池が決壊し、ため池の下流域で人が亡くなる二次被害が発生しています。これまで、ため池の決壊を予測したり、その危険情報を伝達したりする手段はありませんでした。
このような被害を防ぐため、農研機構は共同研究グループと共に、このような大地震や、豪雨におけるため池の決壊をリアルタイムに予測し、予測情報を迅速に関係者に伝達・共有する「ため池防災支援システム」を開発しました。早期避難のための情報を提供して人的被害を防止するとともに、災害情報を全国の防災機関に共有することにより迅速な災害支援に役立ちます。
本システムでは、地震時には地震情報を受信してから30分以内、豪雨時には現在時刻から6時間後までのため池の決壊危険度を予測して、インターネットで予測結果を地図に表示します。国や自治体はこの情報を元に、ため池周辺の住民の避難対策を行ったり、決壊防止のための緊急対策を行うことができます。また、スマートフォンやタブレットを用いて、ため池の管理者が現地で被災状況を入力したり、被災写真をアップロードすることによって、国・自治体等の関係機関の間でため池決壊の有無や被災状況を即座に情報共有できます。平成31年度から本格運用を開始する予定です。

関連情報

予算:内閣府 戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)「レジリエントな防災・減災機能の強化」


詳細情報

開発の背景

ため池は、大きな河川のない地域等で農業用水を確保するため、小さな沢に土を盛り小河川をせき止めて人工的に造られた池のことです。江戸時代に最も多く築造され、現在も日本の農業を支えていますが、地震や豪雨で決壊する事例が多くみられるようになってきました。
東日本大震災では、福島県の藤沼ため池が決壊し、地震発生から30分後に決壊水が住宅を襲い、8名の方が亡くなられました。また、音声通話の不通等により、県庁や農林水産省にため池決壊の情報が届くまでに時間を要し、迅速な災害情報の共有ができませんでした。
そこで農研機構は共同研究グループと共に、このような大地震および豪雨におけるため池の決壊危険度をリアルタイムに予測し、予測情報を迅速に関係者に伝達・共有する「ため池防災支援システム」を、地盤工学や水文・水理学による予測技術およびICT技術を用いて開発しました。

開発の経緯

内閣府の研究プロジェクト「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)(H26~30)」において、防災科学技術研究所等との共同研究により、府省庁や自治体の間で災害情報を共有するための研究開発の一環として、「ため池防災支援システム」の開発が開始されました。

「ため池防災支援システム」の特長

  • ため池決壊のリアルタイム予測
    地震時には地震情報を受信してから30分以内、豪雨時には現在時刻から6時間後までのため池の決壊危険度をリアルタイムで予測して、赤・黄・青の三色で地図上に表示します(図1A、B)。予測結果はインターネットを通じて、国や自治体等の防災担当者が閲覧できます。
    また、ため池が決壊した場合の氾濫域を算定して、地図上に表示します(図1C)。防災担当者はこれらの情報を元に、ため池周辺の住民の避難対策を行ったり、決壊防止のための緊急点検2)を行うことができます。
    本システムは、(国研)防災科学技術研究所の府省庁連携防災情報共有システム(SIP4D)3)と常時接続しており、避難所や道路通行止めの情報、災害医療拠点等の防災情報を取り込んで、ため池の災害情報と重ね合わせて表示することができます(図1C)。これにより地域の総合的な災害対策にも寄与することができます。
  • ため池管理者用災害報告アプリ
    スマートフォンやタブレットで使える「ため池管理者用災害報告アプリ」を開発しました。ため池の管理者や自治体職員が現地でため池の損傷状態を確認して、写真を撮影して送信したり、緊急点検結果をシステムに入力すると、ため池の被災情報を即座に国、自治体等の関係機関が共有できます(図2)。これにより、国や都道府県などの機関が迅速に災害支援を行えるようになります。

今後の予定

平成30年度中に操作性などについて最終的な改良を行い、平成31年度から本格運用を開始する予定です。本システムを活用するためには、システムへの習熟が不可欠なため、今後、農林水産省や自治体のため池防災担当者、ため池管理者等を対象として、システムの操作方法について講習会を行う予定です。
また本システムは、システム内で仮想的な災害を発生させることができるため、防災訓練やため池の危険度算定・診断などの事前防災にも活用できます。
今後は、ため池に加え、土砂災害や河川の氾濫など、地域防災全体に関わる防災情報を集約し、総合的な防災活動に活用できるよう、システム改良を行う予定です。さらに、ため池の施設管理に活用したり、インフラや農業分野との情報連携を行って、災害時以外の平常時でも活用できるシステムの構築を目指します。

用語の解説

1)決壊
ため池の堤体が壊れて貯水が一気に流れ出す現象です。地震の場合は揺れによって堤体が沈下したり崩れたりして決壊します。豪雨の場合は、大量の雨水がため池の貯水池に流れ込み、堤体の上を水が溢れて浸食されること等により決壊します。

2)緊急点検
主に地震の直後にため池に損傷がないかを点検することをいいます。震度4以上の防災重点ため池(下流に住宅や公共施設等があり、施設が決壊した場合に影響を与えるおそれのある等のため池)について被災の有無を報告することになっています。豪雨前にも点検を行うことが推奨されています。

3)府省庁連携防災情報共有システム(SIP4D)
国全体で状況認識を統一し、的確な災害対応を行うために、府省庁、関係機関、自治体等の災害関連情報システム間を連接し、情報を多対多で相互に情報共有を実現するシステムです。(国研)防災科学技術研究所が中心となって開発しており、ため池防災支援システムもSIP4Dに常時連接して、情報の共有を行っています。

発表論文

1)堀俊和(2016)「ため池防災支援システムの開発」JATAFFジャーナル、4(11):37-41
2)堀俊和(2017)「ため池防災支援システムによる情報共有」週刊農林、2321:10-11
3)堀俊和(2018) 「地震・豪雨時の農業用ため池の被害と ICT 等を用いた減災技術」地盤工学会誌、Vol.66 No.4 Ser.No.723:4-7

参考図

図1 災害時におけるため池の決壊危険度予測
ため池(ピンマーク)の決壊危険度を、赤(危険)、黄(注意)、青(安全)の3色で地図上に表示します(白は地震の震度や降雨量が小さく、危険性なし)。全国の決壊予測情報を俯瞰的に閲覧できます。

A)南海トラフ地震を想定したため池の決壊危険度予測。このクラスの巨大地震の場合、防災科学技術研究所のSIP4Dから地震情報を受け取ってから30分以内に、特に地震の揺れが大きい地域の全ため池および震度4以上の地域にある防災重点ため池の決壊危険度を予測します。地図に塗られている色は地震の震度(暖色ほど大きい震度)を表しています。
B)平成29年7月九州北部豪雨における決壊危険度予測。災害発生から6時間前に出された予測結果。実際に決壊が発生した福岡県朝倉市(赤の丸点線内)で赤マークの危険予測が出ています。地図に塗られている色は時間降雨量の大きさ(暖色ほど大きい降雨量)を表しています。
C)九州北部豪雨におけるため池の氾濫予測結果。決壊危険度が高いため池の氾濫域(赤の丸点線内、水深ごとに赤~青で表示)を表示します。


図2 スマホを用いた災害報告や被災写真の送付
現地でため池の被害状況を入力すると、即座に関係機関に情報が共有されます。