プレスリリース
春夏どりに適したコンパクトネギ2品種を育成

- 緑の葉先までおいしいネギの周年供給が可能に -

情報公開日:2016年11月16日 (水曜日)

ポイント

  • 葉が短く手軽に持ち運べ、緑の葉先まで軟らかくおいしく食べられるコンパクトネギの新品種「こいわらべ」(春どり、初夏どり用)及び「すずわらべ」(夏どり用)を育成しました。
  • すでに育成されている冬どり用の「ふゆわらべ」、秋冬どり用の「ゆめわらべ」に、両品種を組み合わせることにより、コンパクトネギの周年供給が可能になります。

概要

  1. 農研機構は、春から夏に安定生産できるコンパクトネギ品種「こいわらべ」及び「すずわらべ」を育成しました。
  2. 「こいわらべ」は、抽だい1)(とう立ち)が極めて遅い性質があるため、4~6月の安定生産が可能です。「すずわらべ」は7~9月の高温期でも生育が旺盛で、収穫物の形状もよく揃うことから、秀品収量2)が多くなります。
  3. 両品種とも全体に短く、ネギの白い部分(葉鞘(ようしょう)3)部)の太りが早いため、一般の根深ネギよりも20cmほど短いサイズで出荷するコンパクトネギとしての利用に適しています。また、葉鞘部だけでなく、緑の部分(葉身(ようしん)4)部)も軟らかく辛みが少ないため、捨てる部分なくまるごと食べられるという特徴をもちます。
  4. コンパクトネギは、買い物の際の持ち運びや冷蔵庫への収納が容易で、少人数家庭でも使い切りやすいと注目されています。これまでに育成した「ふゆわらべ」(冬どり用)や「ゆめわらべ」(秋冬どり用)にこれらの品種を組み合わせることにより、コンパクトネギの周年供給体制を確立することが可能になります。
  5. 「こいわらべ」及び「すずわらべ」の種子は、民間種苗会社等に利用許諾を行い、販売される予定です。

関連情報

予算:運営費交付金

新品種育成の背景と経緯

  • 消費者の嗜好やライフスタイルの変化により、従来よりも小型の野菜へのニーズが高まっています。長い根深ネギは買い物袋からはみ出る、冷蔵庫に収まりきらない、一度に使い切れず無駄になるといった点で敬遠される場面も見られています。また、緑の葉の部分は硬くて食用に向きませんが、捨てることには抵抗を感じる消費者も多くいます。
  • そこで農研機構では、民間の育種に先駆けて、葉鞘が短くて太い、しかも軟らかく良食味を有する短葉性品種の育成に取り組み、2009年に冬どり栽培に適した「ふゆわらべ」を、2012年には、より幅広い栽培時期に高い収量・品質を示す「ゆめわらべ」を育成しました。これらを長さ40cm程度の短い荷姿に調製したコンパクトネギ(写真1)は、消費者の扱いやすさをアピールする商材として、また軟らかく葉身部まで利用できる特徴ある食材として新たな需要が期待されています。コンパクトネギは、短い荷姿ではあるものの、従来のネギと変わらぬ収益が得られることから、新たに取り組む産地が生まれており、関東市場を中心に流通が始まっています。
  • また、コンパクトネギは葉鞘が短いことから、根深ネギでは不可欠の土寄せ5)作業が大幅に省力化でき、また、従来の品種よりも短期間に栽培できることから、規模拡大や生産コスト低減にも役立つと考えられます。
  • コンパクトネギの普及促進には、周年供給が可能であることが重要になります。しかし、コンパクトネギ「ふゆわらべ」及び「ゆめわらべ」は、一般のネギと同様に、春~初夏(4~6月)の生産においては抽だい(とう立ち)の発生による収量の低下、また、夏季(7~9月)の生産では高温下での生育停滞等により収量及び品質の低下がみられ、周年供給は困難でした。そこで、抽だい時期が遅く春~初夏の生産が可能な品種、及び夏季の栽培でも収量性の高い品種を育成し、コンパクトネギの周年供給を可能にしました。

新品種「こいわらべ」の特徴

  1. 「こいわらべ」の外観は、一般のネギ品種よりも短く太い特徴をもちます(写真2)。「ゆめわらべ」と比べ、葉身・葉鞘はやや短く、葉鞘径は太く、収穫物の形状の揃いにも優れます(表1)。
  2. 「ふゆわらべ」及び「ゆめわらべ」より抽だい時期が遅く、9月中旬以降に播種した場合、翌年5~6月に抽だいがほとんど発生せず収穫に至り、両品種より収量が多くなります(表1写真4)
  3. 辛みの程度は低く(表1)、葉身・葉鞘ともに軟らかい食感をもち、全体を食すことができます。
  4. 冬季積雪のない温暖地又は暖地において夏~秋に播種し、春~初夏に収穫する露地栽培又はトンネル栽培に適しています。
  5. 「こいわらべ」は、極晩抽性をもち短葉で軟らかく辛みの少ない「MSS-TA-4」を母親、短葉で葉鞘肥大の旺盛な「TAM-3」を父親とするF1品種6)です。

新品種「すずわらべ」の特徴

  1. 「すずわらべ」も、一般のネギ品種よりも短く太いのが特徴です(写真3)。冬まき夏どりの作型において「ふゆわらべ」及び「ゆめわらべ」より葉鞘径が太く、収穫物の形状がよく揃い、高い秀品率、秀品収量が得られます(表2)。
  2. 辛味の程度は「ゆめわらべ」並みに低く(表2)、一般の根深ネギ品種より軟らかい食感をもち、葉身部も食すことができます。
  3. 全国で栽培可能で、冬に播種し、夏に収穫する露地栽培に適しています。葉鞘が短いため、土寄せ回数が一般のネギより少なく、1か月程度早く収穫できます。
  4. 「すずわらべ」は、葉鞘肥大が旺盛で、優れた外観特性をもつ「MSN-TAM-1」を母親、短葉で軟らかく辛みの少ない「TA-4」を父親とするF1品種です。

今後の予定・期待

これまでに育成した短葉性品種「ふゆわらべ」(冬どり用)及び「ゆめわらべ」(秋冬どり用)と組み合わせることにより、コンパクトネギの周年生産が可能になります(図1)。収穫時期は、「こいわらべ」は春どり及び初夏どり(3月下旬~7月上旬)、「すずわらべ」は夏どり(7~9月)、「ゆめわらべ」は秋冬どり(10~3月)、「ふゆわらべ」は、冬どり(12~2月)に対応しています。

種苗の配布と取扱い

平成28年6月28日に品種登録出願(「こいわらべ」品種登録出願番号:第31274号、「すずわらべ」品種登録出願番号:第31277号)を行い、平成28年9月29日に品種登録出願公表されました。試作用種子については、農研機構との原種苗提供契約により配布することができます。

お問い合わせのページ
「農研機構本部メールフォームでのお問い合わせ」の「研究・品種についてのお問い合わせ」よりご連絡下さい。

利用許諾契約に関するお問い合わせ先

農研機構本部 連携広報部知的財産課 種苗チーム  TEL:029-838-7246   FAX:029-838-8905

品種の名前の由来

「こいわらべ」の「こい」は、こいのぼりの季節である5月から収穫できることから、「すずわらべ」の「すず」は、収穫期の夏に清涼感を与えるイメージとして用い、短く軟らかいネギが力強く育つことを表現する「わらべ」と組み合わせて命名しました。

用語の解説

1)抽だい
春から初夏にかけて、ネギの葉から花茎が伸びてくること。「とう立ち」とも呼びます。やがて花茎の先端に球状の花(いわゆるネギ坊主)をつけます。花茎は葉と比べ非常に硬いため、抽だいしたネギは商品価値を失います。このため、この時期の生産・出荷には抽だいの遅い品種を用いる必要があります。

2)秀品収量
ネギの出荷規格(S、M、L、2Lなど)は、主に葉鞘の太さによって決められ、より太いL級、2L級は市場価格の点でも有利となります。本研究では、L級以上となる葉鞘径 15mm以上の収穫物を秀品とし、その収量を秀品収量と表しました。

3)葉鞘(ようしょう)
ネギの葉は葉身部と葉鞘部からなっており、上部に展開する筒状の緑葉部を葉身、下部の同心円状に重なり合った部分を葉鞘と呼びます。
葉鞘と葉身

4)葉身(ようしん)
3)葉鞘の項を参照。

5)土寄せ
ネギの根元に畝間の耕土をかぶせ、日光を遮ることにより葉鞘部を軟白させることです。この方法により作られるネギは総称して根深ネギと呼ばれ、いわゆる、長ネギ、一本ネギ、白ネギなどはこのようにして作られます。土寄せ作業は、専用の機械を用い、ネギの伸長とともに繰り返し行う必要があり、収穫までに通常5、6回行われます。これに対し、土寄せをほとんど行わず、主に緑色の葉身部を食用とするものを葉ネギと呼びます。

6)F1 品種
異なる品種や系統を親とした交配によって得られる次世代をF1(一代雑種)とよび、これを品種として利用するものです。性質が揃う、生育が旺盛である、などの利点があり、多くの野菜においてF1品種が栽培されています。

7)ピルビン酸生成量(下記の「表1」「表2」)
ネギ類の辛味物質は、含硫成分システインスルフォキシドから、細胞の破壊に伴う酵素反応により分解生成されることが知られていますが、これを直接定量することは困難です。そこで、分解生成過程で同時に生成するピルビン酸が比較的簡便に定量できることから、これをネギの辛味の評価・選抜の指標として利用しています。

参考図

写真1
写真1 コンパクトネギ(左)と一般のネギの出荷時の形態

写真2
写真2 こいわらべ(左)と春扇(右)、白線は20cm
写真3
写真3 すずわらべ(左)と夏扇3号(右)、白線は20cm

表1 「こいわらべ」の秋まき初夏どり栽培による収穫物特性a
表1

表2 「すずわらべ」の冬まき夏どり栽培による収穫物特性a
表2

写真4
写真4 5月下旬における「こいわらべ」(手前)と一般のネギ品種(奥)の抽だい程度

図1
図1 各短葉性品種の想定される収穫時期