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情報:農業と環境 No.102 (2008年10月1日)
独立行政法人農業環境技術研究所

ヨーロッパ土壌科学会議 (EUROSOIL 2008) (8月25〜29日 オーストリア(ウィーン))参加報告

8月25日から29日まで、ヨーロッパ土壌科学会議 (EUROSOIL 2008)が、オーストリア・ウィーンにおいて開催されました。この会議は、2000年(英国)、2004年(ドイツ)に続く3回目の開催です。「土壌分類」、「土壌と気候変動」、「土壌有機物」などのシンポジウムが31、「生態系指標としての腐植」、「森林土壌のモニタリング」などのワークショップが13設定され、それぞれで多数の口頭発表、ポスター発表が行われるという大規模な会議でした。参加者の多くはEU諸国からですが、アジア・アフリカ・中南米を含む77か国からの参加者が集いました。

写真1

写真1 会場となったウィーン工科大学前にて

写真2

写真2 ウィーン市内の公園にあるモーツァルト像

オーストリアの首都であるウィーンには、日本から飛行機で約11時間を要しました。8月下旬のウィーンは、湿度が低いため、日本の初秋を思わせる天候で非常に快適でした。ウィーン国際空港からウィーン市内にはシティ・エアポート・トレイン(片道9ユーロ)を使えば、約16分で着きます。市内は地下鉄、バスや路面電車など公共交通が充実していますが、学会会場となったウィーン工科大学(写真1)付近にはオペラ座、美術館、博物館や公園があり、会場とホテルの間を歩くだけでもおしゃれな町並みが楽しめました(写真2)。

今回の会議は、25日(月)朝9時の開会から29日(金)夕方18時の閉会まで、5日間の日程で行われました(写真3)。農業環境技術研究所から参加した荒尾知人上席研究員と私(前島主任研究員)は、土壌肥沃度と土壌環境のシンポジウム会場で、ジフェニルアルシン酸汚染土壌における水稲の有機ヒ素吸収抑制技術(荒尾)と農耕地土壌中における化学形態変化(前島)についてのポスター発表を行いました。フェニル基を有するヒ素化合物については、海外においても研究例が非常に少なく、その定量方法、毒性、土壌への吸着特性およびその動態に関して質問を受けました。

写真3

写真3 オープニング・セレモニーの会場となったウィーン工科大学講堂

ヒ素全般に関しては、会議3日目に「湛水土壌中の有害物質の動態」をトピックとしてワークショップが開かれ、口頭発表11題とポスター発表8題がありました。EU諸国で研究対象とされている汚染土壌は大部分が鉱山周辺や工場跡地などで、わが国のように農耕地を対象としたヒ素汚染土壌の研究やその修復技術に関する報告は非常に少ないように見受けられました。また、汚染土壌の修復技術としては、植物を利用するファイトレメディエーションが主でしたが、現在、農環研が行っているような、浄化後の土壌で農作物を栽培し、その修復効果を検証するような研究例は見受けられませんでした。

この会議に参加して、土壌の生成や分類に関する基礎研究が、今もなお研究テーマとしてしっかり成立していることに感心しました。わが国はというと、土壌の生成・分類に関する研究が精力的に行われていた時期もありましたが、現在は一部の大学や研究所でのみ行われています。とくに土壌の分類は複雑で、論文や報告書をまとめるときにおもに利用されるというさびしい現状もあるようです。この会議では、口頭発表、ポスター発表によらず、多くの研究者が土壌断面写真や分類名を示して、どのような土壌で試験や実験を行ったのかがわかるように配慮していることは素晴らしいと思いました。現在、EUでは世界土壌照合基準 (WRB) を各国で試行中ということもその背景にあると思いますが、わが国も土壌学の原点を見直す必要があるように感じました。

最後に、余談になりますが、会期初日の夕方には、ゴシック様式の美しい建物であるウィーン市庁舎で歓迎会が開催されました。また、4日目の夕方には懇親会がウィーン郊外の “ホイリゲ” で開催されました。“ホイリゲ” には2つの意味があり、ひとつは “今年の新しいワイン” 、もうひとつは “新酒が飲める居酒屋” のことだそうです。懇親会の会場となった “ホイリゲ” は、庶民的なオープンレストランで、生演奏を聴きながら、ハウスワインを賞味しました。多くの参加者と親ぼくを深めることができました。

(土壌環境研究領域 前島勇治)

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