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情報:農業と環境 No.102 (2008年10月1日)
独立行政法人農業環境技術研究所

第9回国際植物病理学会大会(ICPP2008)(8月24〜29日、イタリア(トリノ))参加報告

平成20年8月24〜29日にトリノで開催された第9回国際植物病理学会大会に参加しました。この大会は植物病理学の分野では世界最大規模のもので5年ごとに開催されています。今回は、先進国イタリアでの開催ということもあり、ヨーロッパを中心に80以上の国や地域から1,400名以上の参加申し込みがありました。日本からは大学、試験研究機関、関連企業を中心に約70名の参加(農環研からは私と石井氏の2名)が予定されていましたが、ユーロ高や飛行機代の高騰の影響もあり、参加をキャンセルされた方も多かったようです。大会中に知り合ったドイツの研究者の話では、現在、EU(欧州連合)加盟国間の往来はパスポート不要、トリノまで2〜3時間程度のフライト、また、ユーロ高の影響も受けないので、国内学会と同じ感覚で参加できたとのこと。日本から高い飛行機代を出して16時間以上をかけてやってきた我々から見ると大変うらやましい限りでした。

開催地トリノは、イタリア統一時には首都として機能し、中心街には歴史的建造物なども多く、整然とした街並みが続いていました。2006年冬季オリンピックの開催地として有名になりましたが、もとは自動車産業を中心とした工業都市であり、観光地化はあまり進んでいないようでした。大会の初日、会議場(フィアット社の工場跡地)までの行き方がわからず、英語でたずねても要領を得ず、ようやくバスでの行き方を教えてもらいました。やむを得ず駅から1時間かけて歩いたという方も多かったようです。

会議は24日の受付・懇親会、25日午前の基調講演の後、セッションごとに6つの会場に分かれて講演、議論が行われました。会議の合間にはポスター会場に現地の食材を用いた昼食が用意され、それを食べながらポスターセッションが進められる形式となっており、会場内で用事が済むのは便利でした。ポスター会場はたいへん広く、見て回るのがたいへんでしたが、前述のように発表をキャンセルしたり、飛行機での移動中にポスターを紛失されたりした方も多かったようで、その旨書かれた空白のパネルが結構見受けられました。私も発表前日になってようやく紛失した荷物が届きました。

今回の大会のメインテーマは「食の安全、安心」ということで、従来のセッションに加えて「食の安全、安心に対する植物病理学の役割」、「地球規模の食料の安定供給に向けて」などの特別セッションが多数設けられました。農作物や種苗のグローバルな移動および気象変動に伴う病害虫の侵入・まん延のリスクとその対策、遺伝子組換え作物の有用性と今後の課題、農作物のカビ毒汚染、バイオテロリズム(生物兵器によるテロ)、農薬や化学物質で汚染した畑土壌の微生物を用いた浄化(バイオレメディエーション)などについて、世界各国の取組みの現状と今後の対策が論議されました。とくにEU各国および米国での取り組みが多数紹介され、EU内では国をまたがった共同研究体制が整備され、成果が着実に出はじめていることが見てとれました。また、米国では同時多発テロ以降、バイオテロリズム対策の研究が植物病理関係者を巻き込んで否応(いやおう)なく進められていることがわかりました。

日本の参加者からは、これらの分野における発表は少なく、また、国内の学会においてもそれほど関心が高くないのが現状です。しかし、近年、気象変動に伴う農作物の被害、輸入農作物における農薬や有害物質の残留・混入のニュースがたびたび報道されている現状を考えると、今後、日本においても積極的な取り組みが必要ではないかと考えられました。とくに、EUのように近隣諸国の専門分野の研究者と共同で取り組むことができないか、今後の検討が必要と思われます。

私は、日本のジャガイモの種苗生産現場において検疫上問題となっている細菌病の診断、検出法について報告しました。ヨーロッパにおいても日本と同様な問題が起きていることが報告され、研究者間の情報交換を進めていくことを確認しました。また、ヨーロッパでは、外来侵入微生物に関するデータベース (DAISIE, http://www.europe-aliens.org/index.jsp ) を立ち上げたことが報告され、今後、これらの関連機関との情報交換も検討中です。

会場前で(写真)

今回の大会参加は私にとって4年ぶりの海外出張でした。しかもイタリアということで、治安や言語の問題もあり少々不安でしたが、現地の方のいい加減さと街中でのささいな点に注意してさえいればそれほど心配もなく、後半は快適に過ごすことができました。ただ、海外の研究者とのコミュニケーションについて、もっと積極的にならなければと感じました。これは日本人全体に言えることですが、参加者の数や研究実績の割に招待講演の数が少ない(農業環境技術研究所からの石井氏を含めて数名程度)。言語の問題もあると思いますが、少々残念でした。次回の大会はオリンピックの後を追うように2013年に北京で開催されることが決まっています。そこで招待講演をできるよう、研究を進めていきたいと思います。大会参加についていろいろサポートしていただいた領域長をはじめとする研究所の皆さんにこの場を借りてお礼申し上げます。

(生物生態機能研究領域 堀田光生)

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