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情報:農業と環境 No.102 (2008年10月1日)
独立行政法人農業環境技術研究所

第12回国際微生物生態学シンポジウム (ISME12)(8月17〜22日、オーストラリア(ケアンズ))参加報告

会場メインホール(写真)

写真 メインホール

2008年8月17日から22日まで、オーストラリア・ケアンズで開催された第12回国際微生物生態学シンポジウム (ISME12) に参加しました。このシンポジウムは、微生物生態学分野では最大規模の研究集会であり、毎回おおぜいの研究者が世界各国から集まります。今回も54か国から約1,600名の参加があり、ポスター発表だけでも1,200題以上と盛況でした。筆者は前回(2006年、ウィーン)、前々回(2004年、カンクン)に続き今回が3回目の参加でしたが、その内容の進歩は目覚ましく、微生物生態学がたいへんホットな研究分野であることをあらためて実感しました。

また、このシンポジウムには日本からも200名近くの研究者が参加しており、この分野において日本の研究勢力が大きな位置を占めているという印象を受けました。これは、単に人数だけではなく研究の質も含めてのことで、実際、今回の最優秀ポスター賞の受賞者は日本の大学院生の方でした。

発表ポスター(写真)

写真 発表ポスター

筆者は、土壌DNAから培養法を介さずに有用な遺伝子を取得する手法について “Novel Technologies and Methods: Functional Community Analysis” というセッションでポスター発表を行いました。従来、微生物に由来するさまざまな有用酵素や抗生物質は、それを生産する微生物を培養分離することによって見いだされてきました。一方、環境中に生息する微生物の大部分は、現在の技術では培養困難なものであることが知られています。こうした現状に基づき、培養技術に依存せずに土や水などの環境試料からDNAを直接抽出し、これを一つの遺伝子資源として扱う 「メタゲノムアプローチ」 と呼ばれる手法が近年急速に発展してきています。この手法は、培養技術の限界から利用できずに眠っていた、環境中の膨大な微生物資源の活用に道を開くと期待されています。筆者の研究も、こうした流れの中に位置づけられるもので、今回のポスター発表でも想像以上に多くの方が関心を示してくれました。

メタゲノムは、上記のような遺伝子探索だけでなく、微生物生態系の全体像や機能を把握するための材料としても盛んに用いられてきています。近年のDNAシークエンシング技術の飛躍的な進歩も手伝って、メタゲノム研究は今後も微生物生態学の中心的役割を果たしていくものと思われます。その一方で、“Growing the Recalcitrant” と題したセッションでは、これまで 「難培養」(recalcitrant) とされてきた微生物を巧妙な工夫や共生関係の解明によって培養することに成功した研究が注目を集めていました。メタゲノムアプローチは培養技術の限界を打破する一つの方法ですが、培養によって得られる知見をすべて補完するものではありません。メタゲノムを用いた研究は、この10年ほどの比較的短期間に急速に広まりましたが、一方で、「培養してその微生物の実体を分離する」といった、これまで微生物学の基盤をなしてきた操作の重要性が置き去りにされた面もあったように思います。ここ数年もっぱらメタゲノム研究に従事してきた筆者にとって、このセッションは「培養」の重要性に改めて目を向けさせてくれるものでした。

コンベンションセンター(写真)

写真 ケアンズ・コンベンションセンター

開催地ケアンズは、グレートバリアリーフに面したオーストラリア有数のリゾート地であり、会場となったコンベンションセンターも含めて主要施設が徒歩圏内にまとまった便利な街でした。今回のシンポジウムから、省資源のために講演要旨集が CD-ROM に変更されました。幸いノートパソコンを持参していたため会期中も要旨集の内容を検索することができましたが、そうでなければ、かなり不便だったと思います。分厚い要旨集をノートパソコンに持ちかえるとなると参加者は「省エネ」とはいきませんが、今後はこうしたスタイルが一般的になっていくのでしょうか。。次回の ISME13 は、2010年にシアトルで開催される予定です。

(生物生態機能研究領域 森本 晶)

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