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情報:農業と環境 No.102 (2008年10月1日)
独立行政法人農業環境技術研究所

本の紹介 259: 地球温暖化に挑む −世界の叡智が語る打開策−、 NHK「未来への提言」取材班 編、 日本放送協会(2008) ISBN978-4-14-081231-0

21世紀のさまざまな課題に挑む世界のキーパースンへのインタビュー番組、「未来への提言」。その中の「温暖化に挑む」と題したスペシャル版での対談を再構成したもの。

最初の対談は、NASAゴダード宇宙研究所長のジェームス・ハンセン博士に対する毛利衛氏のインタビュー。ハンセン博士は1981年、モデルから導き出された最初の科学論文をサイエンスに投稿、掲載され、温暖化に警鐘をならした。対談の中で博士は、極地の氷の溶解により、小さな変化が突然巨大な変化を引き起こす、ティッピング・ポイントを超える可能性があるとし、予想以上の水位の上昇を懸念する。また、科学的根拠に基づいて博士が行った温暖化予測に対し、さまざまな政治的圧力があったことを述べている。そして最後に、地球温暖化を防止するうえでもっとも大切なキーワードとして、二酸化炭素排出量が多い上に埋蔵量も豊富で消費が拡大している「石炭」をあげ、対策の重要性を指摘している。

2番目の対談は、イギリス政府の依頼でスターン・レビュー(気候変動の経済学)を記した経済学者のニコラス・スターン博士。インタビュアーは枝廣淳子氏。スターン博士は、温暖化対策と経済成長の両立が可能な「低炭素社会」を説く。温暖化に対して対策を取らなかった場合と取った場合のコストを比較すると、二酸化炭素削減のためのコストはGDPの1%であるのに対し、何も対策を取らなかった場合のコストは世界のGDPの5〜20%と試算している。

3人目は中国の環境法の専門家、王燦発氏と、京都大学の植田和弘氏の対談。経済発展に伴って発生した中国の環境問題の深刻な現状と、法律が本来の役割を果たしていない、社会体制上の問題点を指摘する。

深刻化する温暖化や中国等における汚染問題の解決は、きわめて困難ないばらの道である。科学者、経済学者、法律家に限らず、問題を一人一人が理解し、その理解を共有し、個人も企業も社会も、ただちに行動を起こすことの必要性を強調している。

目次

はじめに  

Chapter 1 温暖化はどこまで進んでいるのか  科学者 ジェームズ・ハンセン×毛利 衛

Chapter 2 低炭素社会をつくる  経済学者 ニコラス・スターン×枝廣淳子

Chapter 3 中国・環境汚染との戦い  法律家 王 燦発×植田和弘

インタビューを終えて

地球温暖化と科学者の役割  毛利 衛

低炭素社会にしなかったときのコスト  枝廣淳子

中国の環境ガバナンス  植田和弘

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