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農業と環境 No.152 (2012年12月1日)
独立行政法人農業環境技術研究所

農地から発生する温室効果ガスを削減する
(日本農民新聞連載「明日の元気な農業への注目の技術」より)

農業分野で働く読者の皆さんの中には、地球温暖化の進行を身近に感じている方も多いのではないでしょうか。近年、地球温暖化が進んでいること、そしてその原因が人為起源の温室効果ガスの排出増加によることが、明らかになってきています。農業分野が排出している温室効果ガスは、日本では国全体のわずか2〜3%ですが、それでも、他の分野と同様、できるだけ温室効果ガスを出さない努力が求められています。ここでは、農業分野における温暖化緩和策のうち、農地から発生する温室効果ガスを抑制する研究を紹介します。

土壌炭素蓄積

温暖化への寄与が最も大きい温室効果ガスは二酸化炭素で、次がメタン、そして一酸化二窒素と続きます。これら3つの温室効果ガスが、農地から発生したり、農地が吸収したりするしくみを図に表しました。

農地から発生する温室効果ガス: 土壌中の窒素(N)として「化学肥料」、土壌有機炭素(C) として「堆肥・作物残渣など有機物」が、農地土壌に入る/畑の土壌中の窒素源から「一酸化二窒素(N2O)」、水田の土壌有機炭素から「メタン(CH4) 」、両方の土壌有機炭素から「二酸化炭素(CO2) 」が大気中に放出される/作物は光合成のために大気中のCO2を取り込むが、呼吸によってCO2の放出もする(模式図)

農地から発生する温室効果ガス

二酸化炭素は土壌有機物の分解により発生しますが、この土壌有機物はもともと植物が光合成により作りだしたものです。つまり、植物が光合成をして二酸化炭素を吸収し、その植物が土壌にすき込まれ、土壌中の微生物により分解されて二酸化炭素が大気に出る、という炭素の循環が行われています。ですから、土壌中に有機物として存在する土壌炭素量が減少するなら農地は二酸化炭素を排出しており、増加なら二酸化炭素を吸収すると考えることができます。土壌炭素量を増加させるためには、堆肥や緑肥などの有機物を土壌にすき込む量を増やしたり、不耕起栽培など、土壌有機物の分解を遅くする管理が有効だとわかっています。

メタンや一酸化二窒素の削減

メタンは、水田に水を張ることにより土壌が還元状態になると、メタン生成菌の働きによって発生します。また、新鮮な有機物が多く存在するほど発生量が多くなります。従って、例えば、水を落とす中干しの期間を長くしたり、新鮮なワラのすき込みから堆肥のすき込みに切り替えたり、同じワラのすき込みでもすき込み時期を春から秋に切り替えるなどの管理をすると、メタンの発生を少なくする効果があります。

一酸化二窒素については、化学肥料や有機物として投入される窒素の量が多いほど、発生量が多くなるので、無駄な窒素肥料の施用を抑える減肥や、肥効を良くするための局所施肥や分施が発生量を減らすのに効果的です。さらに、硝化抑制剤入り肥料など新しいタイプの肥料も発生量抑制に効果があることがわかっています。

総合的にみてどうなのか

以上、3つの温室効果ガスについて個別に説明してきましたが、一つのガスを減らすと他のガスが増える場合があるので注意が必要です。これはトレードオフと呼ばれます。例えば、有機物の投入量を増やすと土壌炭素量が増加しますが、一酸化二窒素の発生も増加させる可能性があります。水田では、さらにメタンの増加も考えられます。3つの温室効果ガスを総合的にみて排出量を減らすことが重要となります。また、農業機械の燃料などから発生する二酸化炭素も含めて総合評価することも大事です。例えば、有機物の施用で土壌炭素が増加するとしても、堆肥の製造や運搬、散布などに土壌への炭素蓄積効果以上の二酸化炭素排出があっては意味がないからです。

温室効果ガスだけではなく、他の環境負荷とのトレードオフも考える必要があります。例えば、有機物の投入増加は、硝酸性窒素による地下水汚染や閉鎖性水域での富栄養化などを引き起こす場合もあります。以上のように、考慮すべきことがたくさんあり、さらに、生産性も当然考える必要があります。上で示した緩和策は基本的に正しいですが、私たちは、引き続き「総合的にみて結局どうなのか」という情報を提供するべく、研究を行っていますので、今後にもご期待ください。

(独)農業環境技術研究所 農業環境インベントリーセンター 白戸康人

農業環境技術研究所は、農業関係の読者向けに技術を紹介する記事 「明日の元気な農業へ注目の技術」 を、18回にわたって日本農民新聞に連載しました。上の記事は、平成23年4月25日の掲載記事を日本農民新聞社の許可を得て転載したものです。

もっと知りたい方は、以下の関連情報をご覧ください。

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