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生物研
プレスリリース
平成26年5月19日
独立行政法人 農業生物資源研究所

シュウ酸カルシウム針状結晶とプロテアーゼとの
劇的な相乗的殺虫効果を発見

ポイント
  • キウイフルーツなど多くの植物に含まれるシュウ酸カルシウム針状結晶とタンパク質分解酵素の一種であるシステインプロテアーゼを同時に昆虫に与えると、極めて強い殺虫効果を示すことを発見しました。
  • 今後、シュウ酸カルシウム針状結晶を含むものの、システインプロテアーゼの発現量の少ないサトイモ・ブドウなどの作物においてシステインプロテアーゼの発現量の多い系統を育成するなど、この相乗効果を活用した殺虫技術の開発につながるものと期待されます。
概要
  1. キウイフルーツ、パイナップル、サトイモ、ヤマノイモ、ブドウ、アロエ、ホウセンカ、ランなどの多くの植物には、「シュウ酸カルシウム」の針状結晶が多量に含まれており、このシュウ酸カルシウム針状結晶1)が害虫の食害から植物を守る働きがあると考えられてきました。一方、タンパク質酵素の一種であるシステインプロテアーゼ2)も害虫の食害を防ぐ働きがあり、こうした酵素を多量に含む作物は耐虫性を持つことが知られています。キウイフルーツやパイナップルは非常に強い耐虫性を持つことが知られていますが、これら作物には針状結晶とシステインプロテアーゼの両方が含まれていることから、これら両者の共存により耐虫性が増しているのではないかと推測されていました。
  2. 独立行政法人農業生物資源研究所(生物研)は、シュウ酸カルシウム針状結晶と耐虫物質であるシステインプロテアーゼを同時に葉に塗布して昆虫に与えると、相乗作用により極めて強い殺虫効果を示すことを発見しました。
  3. シュウ酸カルシウムの砂状の結晶では、システインプロテアーゼとの相乗的な殺虫効果は全く認められませんでした。針状結晶は昆虫の細胞や組織に穴を開けシステインプロテアーゼの体内・細胞内への侵入を容易にすること(針効果)により、殺虫性が示されたものと考えられます。
  4. 本研究により、シュウ酸カルシウム針状結晶をもつキウイフルーツ、パイナップル、ブドウ、サトイモ、ヤマノイモ、バナナ、ココヤシなどの食用植物やラン、アマリリス、アロエ、インパチェンス、ベゴニア、シュロ、ポトス、アジサイなどの観賞用植物の耐虫性を理解する上で重要な知見が得られました。今後、本研究が、サトイモ、ブドウなどの作物におけるシステインプロテアーゼの発現量が多い系統の選抜を通じた耐虫性作物の育成など、害虫による作物の被害を防ぐ新技術の開発につながることが期待されます。
  5. この成果は、3月12日にPLOS ONEに発表されました。
図1
図1 キウイフルーツ果実から精製したシュウ酸カルシウム針状結晶の電子顕微鏡写真。
図2
図2.シュウ酸カルシウム針状結晶とシステインプロテアーゼの相乗的な耐虫効果。エリサン幼虫にシステインプロテアーゼ単独、シュウ酸カルシウム針状結晶単独及び、両方同時に塗布した葉を食べさせ、耐虫効果を比較しました。
(A)何も塗布しない、(B)シュウ酸カルシウム針状結晶を塗布、(C)システインプロテアーゼを塗布、(D)シュウ酸カルシウム針状結晶とシステインプロテアーゼを両方塗布、(D)の両方塗布した場合のみ、顕著な耐虫効果が見られる。

予算:運営交付金

プレスリリース全文 [PDF:952KB]
【発表論文】

Konno K., Inoue A.T., Nakamura M. (2014) Synergistic defensive function of raphides and protease through the needle effect. PLOS ONE 9(3): e91341.
DOI: 10.1371/journal.pone.0091341

問い合わせ先など
研究代表者:(独)農業生物資源研究所 理事長廣近 洋彦
研究推進責任者:(独)農業生物資源研究所 昆虫科学研究領域
 加害・耐虫機構研究ユニットユニット長門野 敬子
研究担当者:(独)農業生物資源研究所 昆虫科学研究領域
 加害・耐虫機構研究ユニット主任研究員今野 浩太郎
 電話:029-838-6087  E-mail:konno@affrc.go.jp
広報担当者:(独)農業生物資源研究所広報室長谷合 幹代子
 電話:029-838-8469
本資料は文部科学記者会、科学記者会、筑波研究学園都市記者会、農政クラブ、農林記者会、農業技術クラブに配付しています。

【掲載新聞】  5月20日読売新聞、日本経済新聞、日経産業新聞、日本農業新聞、化学工業日報、茨城新聞、山形新聞、琉球新報
5月23日産経新聞
6月13日科学新聞

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