イノシシの生態解明と農作物被害防止技術の開発
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参考資料

イノシシの生態           文責 鳥獣害研究チーム

  1. 分布
  2. 形態
  3. 生息環境
  4. 食物
  5. 繁殖
  6. 社会性
  7. 感覚
  8. 運動能力
1.分布
 イノシシは偶蹄目(ウシ目)イノシシ科に分類され、北アフリカの一部からユーラシアに広く分布する。日本に生息するイノシシは、本州・四国・九州および周辺の島嶼に生息するニホンイノシシと奄美大島・徳之島・沖縄島・石垣島・西表島に生息するリュウキュウイノシシの2亜種に分類されている(阿部 2005)。

 本州での分布は右図に示す。これを見ると西日本が中心でほぼ全域に分布していることが分かる。東北から関東にかけては分布が限られるが、福島・栃木・茨城にまたがる阿武隈山系はまとまった分布がある。

 もっとも注目すべき点は図中の黄色い部分(1978年には分布していなく、2003年に生息を確認したところ)が全国的に広く見られるところである。特に関東北部で目立ち、分布が拡大しつつあることが伺える。
図.イノシシの分布(2003)
第6回自然環境保全基礎調査「種の多様性調査 哺乳類分布調査報告書」環境省自然環境局生物多様性センター「生物多様性システム」 より引用
2.形態
 体のサイズは亜種や地域によって異なり、西表島産リュウキュウイノシシの雄成体では体重40-50kg、頭胴長80-110cm。中国山地産ニホンイノシシの雄成体では体重50-150kg、頭胴長110-160cmである(阿部 2005)。

 性的2型が見られ、雌は雄よりも小さく、犬歯も小さい(阿部 2005)。
3.生息環境

 常緑広葉樹林、落葉広葉樹林、里山の2次林、平野部などに広く分布し、林地に隣接する水田や農耕地にも出没して、作物を荒らす(千葉1969、朝日1976)。

 広葉樹林、水田放棄地、竹林などを選択的に利用する(小寺ら 2001、高橋2003)。

 暖冬による小雪化の影響で、イノシシの生息可能地域が広がるとともに、農業被害が拡大していると考えられる(高橋1995、2005)。

 人間の影響が少ない地域では、イノシシは昼間に活動し(花井1976、仲谷2003)、夜行性を示すのは2次的な習性と思われる。

4.食物
 雑食性で何でも食べるが、胃内容物での動物質の出現率は30%ほどと少ない(朝日1976)。植物ではクズ、ヤマイモ、チガヤなどの根茎や各種の葉、果実、堅果など、動物では昆虫類、 ミミズ、カエルなどを食べ(朝日1976)、そのほかに人間が食べるものはイノシシもほとんど食べると考えてよい。

 
季節別に見ると、春にはタケノコ、秋は堅果類や動物質、冬には植物の根や塊茎を食べる割合が増える(小寺 ・神崎2001)
5.繁殖
  ニホンイノシシでは、交尾期は12月から1月にかけて始まり、約3ケ月間続く(仲谷 2001)。出産は通常1年に春1回だが、春の出産に失敗した雌の中には発情して秋に子どもを産むものがある。妊娠期間は約120日。産仔数は、ニホンイノシシで平均4.5頭ほど(2- 8頭)。初産齢ふつうは2歳で、毎年繰り返し繁殖を行う(仲谷 2001)。リュウキュウイノシシでは、春秋年2回の出産期が知られている(花井1976)。

 成獣の死亡率は高く、毎年半数近くが狩猟などで死亡する(花井1976、神崎2001)。西中国地域の平均寿命は雄1.0歳、雌1.5歳であるが、それでも純繁殖率は1.055となり、個体数は安定して推移する(神崎2001)。
6.社会性
 通常、雄と雌は別々に活動する。娘は母親とともに母系的な群れを作るが、雄は1-2歳で母親のもとを離れ、小さな群れを作るか、単独生活を行う。兵庫県六甲山での観察では、雄成獣は単独個体のみ。雌でも観察されたグループのうち78%が成獣を1個体しか含まない。成獣を中心にみると、雄も雌も単独型の社会を持つ(仲谷 2001)。

 調査方法が明らかな研究では、雌の行動圏は諸外国も含めた様々な生息地に関わらず、67〜437haとなっている(仲谷2006)。

 雄は発情期に雌に寄り添うことで交尾相手を獲得する。雌が集団生活しないイノシシでは、たくさんの雌を同時に確保するハレム型の1夫多妻はつくらない(仲谷 2001)。

 春になると、母親は新しい子どもを産み、昨年の子どもは独立していく(仲谷 2001)。
7.感覚
視覚
  • 青・青緑と紫の1部について明瞭に識別でき、色が赤や緑に移行するにつれ見えにくくなる(Eguchi et al. 1997)。
  • イノシシで視力を調べたものはないが、ブタでは0.1を下回る程度。これは100m離れた位置から直径1.5mのドーナツ型の円環に開いた30cmのすき間が識別できる程度、つまり100m先から人間をみわけるのに十分な視力である(江口 2003)。 夜目はあまり利かないと考えられている(江口 2003)。
嗅覚
  • イノシシの嗅覚は非常に優れており、犬なみと考えられている(江口 2003)。
触覚
  • イノシシの鼻鏡(鼻先)はとても柔らかく、剛毛も生えていない。イノシシの鼻先の動きは繊細であり、初めて見るものの感触を確かめたりするのに使われる(江口 2003)。
8.運動能力
跳躍力
  • 餌付けされた野生イノシシ、成獣4頭、子6頭において、跳躍力の優れた個体は120cmの高さを、1歳未満の子イノシシでも60cmの高さを飛び越えた(江口 2001)。
  • イノシシは助走をつけて跳躍することはなく、立ち止まって餌の有無を確認し、障害物の高さを目で確認してから跳躍した。踏切位置は障害物から30cmくらい手前であった(江口 2001)。
鼻の押し上げ力量
  • 飼育下で成獣雌2頭(5および6歳、推定体重60kg)による鼻の押し上げ力量の記録は、60.0kgと57.5kgであった(江口 2001)。また雄では70kg程度までの重さまで容易に持ち上げていた(江口 2003)。
くぐり抜け
  • 有刺鉄線のように多少でも柔軟性があると、20cmのすき間でも地面を掘らずに通り抜けることができる(江口 2003)。
  • 幅のある障害物では、障害物が複雑になるにつれ、下をくぐって通りぬけようとする傾向があった(江口 2003)。


引用文献
朝日稔 1976  イノシシ 「追われる「けもの」たち」(四手井綱英・川村俊蔵編) 築地書館 94-113p.
阿部永[監修] 2005   「日本の哺乳類改訂版」 東海大学出版会 206pp.
千葉徳爾 1969   「狩猟伝承研究」 風間書房 850p.
Eguchi, Y., H. Tanida, T. Tanaka & T. Yoshimoto 1997 Color discrimination in wild boars. J. Ethology 15 1-7.
江口祐輔 2001 イノシシの行動と能力を知る 「イノシシと人間」(高橋春成 編) 古今書院 171-199p.
江口祐輔 2003   「イノシシから田畑を守る」 農文教 149p.
花井正光 1976 リュウキュウイノシシ<西表島> 「追われる「けもの」たち」(四手井綱英・川村俊蔵編) 築地書館 114-129p.
神崎伸夫 2001 イノシシの商品化と個体群管理 「イノシシと人間」(高橋春成 編) 古今書院 258-288p.
仲谷淳 2001 知られざるイノシシの生態と社会 「イノシシと人間」(高橋春成 編) 古今書院 200-220p.
仲谷淳 2003 お仕事は土掘り  「森の野生動物に学ぶ101のヒント」 日本林業技術協会 94-95p.
仲谷淳 2006 イノシシの生態とワイルドライフ・マネジメント 植物防疫 60(2) 1-4.
農林水産技術会議ら   2003   「農林業における野生獣類の被害対策基礎知識」 農林水産技術会議・森林総研・農業・生物系特定産業技術研究機構 63p.
小寺祐二・神崎伸夫 2001 島根県石見地方におけるニホンイノシシの食性および栄養状態の季節的変化 野生生物保護 6(2) 109-117
小寺祐二・神崎伸夫・金子雄司・常田邦彦 2001 島根県石見地方におけるニホンイノシシの環境選択 野生生物保護 6(2) 119-129
島根県 1997    島根県におけるイノシシに関する調査(1) 島根県農林水産部森林整備課 37p.
高橋春成 1995   「野生動物と野生化家畜」 大明堂 309p.
高橋春成 2003 大学と地域が一緒になってイノシシとの共存を考える 「滋賀の獣たち」 サンライズ出版 199p.
高橋春成 2005 人間と野生動物の共存問題−伝統的動物観から生物多様性まで− 「共生をめざした鳥獣害対策」(農林水産技術情報協会 編) 全国農業会議所 1-10p.