飼料作物病害図鑑

飼料イネ 赤かび病 リスク評価スコア2.0 (1,2,3)

穂の病徴 病原菌(F. asiaticum)、大型分生子 病原菌(F. incarnatum)、大型分生子 病原菌(F. sporotrichioides)、分生子柄とフィアライド、大型、中型、小型分生子

病徴:飼料イネの穂を褐変させる糸状菌病で、九州、関東および北海道等で発生する。籾では初め淡褐色の小斑点を生じ,やがてこれが拡大して籾全体が褐色に変色し,植物組織が破壊される。多発すると黄熟期からデオキシニバレノール(DON)、フモニシン(FUM)などのかび毒(マイコトキシン)が蓄積され始め、完熟期に蓄積量は最大となる。

病原菌:Fusarium asiaticum O' Donnell, T. Aoki, Kistler et Geiser, Fusarium incarnatum (Desmazières) Saccardo, Fusarium sporotrichioides Sherbakoff, Gibberella zeae (Schweinitz) Petch (=Fusarium graminearum Schwabe)、子のう菌
食用イネの病原菌Gibberella zeaeは種複合体だが、これに含まれるFusarium asiaticumおよびF. graminearum s.str.が分離され、, 後者の病原性が確認されている(田邉ら 2007)。その他、F. avenaceumおよびF. sporotrichioidesも分離されている(佐藤ら 2006b)。飼料イネでは、F. asiaticum, F. incarnatumおよびF. sporotrichioidesが分離され、イネへの病原性も確認されている(月星ら 2013e,上垣・月星 2014)。前2者は農業生物資源研究所微生物ジーンバンクにMAFF511501および511509-511511として登録されている。また、病原性は不明であるが、F. fujikuroi等も分離されている(MAFF511504)(月星ら 2009d)。


生理および生態:イネおよび麦類から分離されるF. graminearumは、いずれもイネに対して病原性を示し、かび毒NIV(ニバレノール)産生型がDON産生型よりも病原性が強いとされるが(吉田ら 2004, 2005)、毒素産生型と病原性は無関係とする報告もある(佐藤ら 2006a)。降雨の影響を受けた籾付き飼料イネ由来の粗玄米では、NIV汚染度がDON汚染度よりも高いが、その程度は麦よりも低いことが報告されている(中島ら 2005)。また、玄米を精米すると毒素はほとんど検出されなくなるとされる(田邉ら 2007)。赤かび罹病穂から分離されるF. fujikuroiは、FUMを産生するがイネばか苗病を引き起こさず、FUM産生系統はジベレリン産生能が低く、FUMを産生しないイネばか苗病系統とは別系統であることが明らかになっている(南雲ら 2010, 須賀ら 2013, Suga et al. 2014, 稲垣ら 2018, 舘林ら 2019)。

防除法:FUMについては穂で黄熟期から増加し、完熟期に最大に達することが圃場および温室内接種試験で明らかになっているため、刈り遅れないことが重要である(Uegaki et al. 2014)。FUM蓄積程度には品種間差も認められる(Uegaki et al. 2014)。また、飼料用米のサイレージ調製貯蔵中に、嫌気条件が保たれていれば、フモニシン産生かびが存在しても、フモニシン濃度は増加しないことが報告されており(上垣ら 2010, 2012b, Uegaki et al. 2013a)、サイレージ調製に際してはロールを密封するなど、嫌気条件を保つことが重要である。

総論:齊藤(2009)


畜産研究部門(那須研究拠点)所蔵標本 なし

(月星隆雄,畜産研究部門,畜産飼料作研究領域,2021)


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