ライグラスの病害 (2)


冠さび病(kansabi-byo) Crown rust
病原菌:Puccinia coronata Corda var. coronata、担子菌
 ライグラスの最重要病害の一つであり、被害は大きい。関東以南の比較的温暖な地域での発生が多い。初め黄色の腫れ物状の病斑であるが、やがて長さ1〜2mm、幅0.5mm程度の楕円形病斑となり、表皮が破れて中から黄色〜オレンジ色の夏胞子が現れる。激発すると、葉身全体が黄色い粉を吹いたように見え、やがて枯死する。黒褐色の冬胞子堆も形成するが、越冬・越夏には夏胞子が重要な役割を果たすと考えられている。病原菌はフェスク菌と同種であるが、寄生性が異なる。また、わが国ではレースの存在は認められていない。


紅色雪腐病(koushoku-yukigusare-byo) Pink snow mold
病原菌:Monographella nivalis (Schaffnit) Muller、子のう菌
 積雪下で株枯れを引き起こし、関東以北に分布する糸状菌病。積雪下の茎葉が軟化・枯死し、ピンク色に見える。菌核は形成しない。非積雪地域の芝地でも、発生が報告されている。病原菌はマイコトキシンとして、ニバレノールおよびデオキシニバレノールを産生するとされてきたが、最近の研究で少なくとも日本産の菌は産生しないことが分かっている。


雲形病(kumogata-byo) Scald
病原菌:Rhynchosporium secalis (Oud.) J.J.Davis、不完全菌
 春と秋に発生する斑点性の糸状菌病。初め水浸状の小さな病斑であるが、やがて内部は淡橙色〜灰白色、周縁部は褐色で、長紡錘形〜楕円形、長さ0.5-2cmの特徴的な病斑を形成する。病斑は徐々に融合し、『雲形』になっていく。葉は病斑部から裂けることが多く、すだれ状になることもある。激発した場合は、草地が坪状に枯れ、そこだけ白く見える。本病は冷涼多湿条件で多発する。病原菌はオオムギ雲形病菌と同種であるが、寄生性は若干異なる。


黒さび病(kurosabi-byo) Stem rust
病原菌:Puccinia graminis Persoon f.sp. lolii Guyot et Massenot、担子菌
 葉にさび胞子堆を形成する糸状菌病。発生は北海道の一部地域に限られ、被害は小さい。さび病独特の腫れ物状の病斑を形成し、病斑は赤褐色または鉄さび色、楕円形〜条状で、長さ1〜2mm、幅0.5〜0.6mm程度となり、これが融合して不規則な形になる。成熟すると表皮が破れて中から赤褐色の夏胞子を飛散し、まん延する。夏から秋にかけて病斑は黒褐色になり、冬胞子を形成して越冬する。病原菌はオーチャードグラス菌とは寄生性が異なる。


苗立枯病(nae-tachigare-byo) Seedling damping off
病原菌:Pythium aphanidermatum (Edson) Fitzp., P. periilum Drechsler, 卵菌
 2018年8月,栃木県那須塩原市および2019年10月には熊本県の圃場で発生した病害。播種後約2週間のイタリアンライグラスおよびペレニアルライグラス苗が枯死し、根表面は褐変し根量が大きく減少するとともに、地際部が褐変する。特に8-9月に早播きし、気温が30℃、地温が25℃以上の時に多発する。病原2種はいずれも高温性のPythium属で、生育適温は35℃である。P. aphanidermatumはより病原性が強い。P. periilumP. graminicolaと形態的に極めて類似し、トウモロコシ根腐病菌でもある。


夏斑点病(natsu-hanten-byo) Summer leaf spot
病原菌:Cochliobolus sativus (Ito et Kuribayashi) Drechs. ex Dastur (= Bipolaris sorokiniana (Saccardo apud Sorokin) Shoemaker)、子のう菌
 夏に多く発生する斑点性の糸状菌病。病斑は葉身に形成され、褐色、楕円形から不整形で、中央部は黒褐色となる。大きさは5ー6×2ー3mm程度で、多発すると葉を枯らす。周縁部はやや黄化する。病原菌はヘルミントスポリウム菌で、寄主範囲が広く、フェスク斑点病なども引き起こす。


ピシウム病(Pythium-byo) Pythium blight
病原菌:Pythium spinosum Sawada, P. sylvaticum Campbell & Hendrix, P. vanterpoolii V. & H. Kouyeas、卵菌
 2006年11月栃木県那須塩原市のイタリアンライグラス圃場で発生した病害。罹病植物は地上部が黄化萎凋、枯死し、地際の褐変および根の黒変が認められる。播種後9-10月の気温が高く推移すると多発し、病勢が進むと欠株となる。ライグラスの芝地で既に報告のある病害だが、病原菌のうち、P. spinosumおよびP. sylvaticumはライグラスでは初報告である。ペレニアルライグラス芝では、P. aristosporumP. myriotylumおよびP. vanterpooliiが病原として報告されている。


白絹病(shirakinu-byo) Southern blight
病原菌:Corticium rolfsii Curzi、担子菌
 葉、葉鞘、稈および冠根など地上部全体に発生する糸状菌病。初め地面に近い葉や葉鞘が暗色水浸状になり、表面を白い絹糸状の菌糸がはう。後に栗褐色、直径0.3-0.5mmの菌核が形成され、植物体は地際部から腐敗するように枯れていく。


炭疽病(tanso-byo) Anthracnose
病原菌:Colletotrichum graminicola (Cesati) G.W.Wilson、不完全菌
 暖地での夏枯の原因となる斑点性の糸状菌病。初め水浸状の小斑点が現れ、これが広がって灰白色〜淡褐色、長楕円形〜紡錘形、長さ5-10mm、幅2ー4mm程度の病斑になる。病斑が古くなると中央部に剛毛という菌組織を形成し、黒くかびたように見える。多湿条件下ではオレンジ色の胞子粘塊を形成し、これが風雨で飛散してまん延する。梅雨明けから夏の終わりにかけて発生する。病原菌はソルガム、オーチャードグラス、バヒアグラスなどの炭そ病菌と同種であるが、それぞれ寄生性が分化しているとされる。


うどんこ病(udonko-byo) Powdery mildew
病原菌:Blumeria graminis (de Candolle) Speer、子のう菌
 1996年に宮崎県でイタリアンライグラスに発生した病害。4月から7月にかけて、葉身および葉鞘に発生し、初め表面に白色粉状の楕円形の菌叢を形成し、後に拡大して灰白色の菌叢となる。発生後期には病斑は相互に融合して不定形となり、植物体全体にうどんこを振りかけたような状態になる。病原菌はライグラス類に特異的な病原性を示す。


雪腐褐色小粒菌核病(yukigusare-kasshoku-shouryuu-kinkaku-byo) Typhula snow blight
病原菌:Typhula incarnata Lasch:Fries、担子菌
 積雪下で株枯れを引き起こし、主に北海道で発生する重要病害。病徴は黒色小粒菌核病と類似するが、枯死部表面に形成される菌核が粟粒大、赤褐色である点が異なる。菌核は枯死植物の茎、葉、根などに形成される。病原菌は黒色小粒菌核病菌と近縁だが、より腐生性が強く、黒色小粒が発病した後に侵入し、混発するとされる。


雪腐黒色小粒菌核病(yukigusare-kokushoku-shouryuu-kinkaku-byo) Typhula snow blight
病原菌:Typhula ishikariensis Imai、担子菌
 積雪下で株枯れを引き起こし、主に北海道で発生する重要病害。病徴は融雪直後から現れ、茎葉は水浸状になり、ゆでたように軟化して、乾くと灰褐色に変色する。この上には暗褐色〜黒色、球形〜不整形、直径0.5-1mm程度の菌核を多数形成する。病原菌は形態的に異なる3つの生物型に分類され、生物型Aは多雪地帯に、生物型Bは寡雪地帯に、生物型Cはいずれにも分布する。これらの菌群は分布だけでなく、寄生性及び稔性などでも異なる。


雪腐大粒菌核病(yukigusare-tairyuu-kinkaku-byo) Sclerotinia snow blight
病原菌:Myriosclerotinia borealis (Bubák et Vleugel) Kohn、子のう菌
 積雪下で株枯れを引き起こし、主に北海道、東北で発生する重要病害。土壌凍結期間の長い地域に分布する。病徴は融雪直後に深緑色、水浸状になり、ゆでたように軟化する。乾くと灰褐色になり、その表面にネズミの糞状で、大きさ5-10mm程度の黒い大型菌核を形成する。晩秋には菌核からキノコが出て、感染源となる子のう胞子を飛散させる。病原菌は多犯性で、オオムギ、コムギ、フェスク、ライグラス、チモシー、レッドトップなどで発生が報告されているが、牧草の中ではオーチャードグラスおよびライグラスが最も弱い。


エンドファイト Endophyte
病原菌:Epichloë festucae Leuchtm., Schardl & M.R. Siegel、Epichloë occultans (C.D. Moon, B. Scott & M.J. Chr.) Schardl、子のう菌
 イネ科植物の内生菌(エンドファイト)であるため、一般的に無病徴で、感染した植物は非感染植物と区別がつかない。葉身や葉鞘などで、無色で分枝が少なく捻れた菌糸が植物細胞間隙を進展する。種子内にも侵入し、菌糸がデンプン粒間を進展して、次世代への感染源となる。わが国では1990年代からライグラスのエコタイプ等で確認されている。感染した植物は、耐虫性、耐病性および環境ストレス耐性などを獲得する。

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