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4.上川(北海道)

おいしい米と高品質野菜をめざして

 <1984年9月23日観測画像>

上川地方は,南北224.4キロメートル,東西56.7キロメートルと縦に長く,その耕地面積は13.2万ヘクタールである。この画像は旭川市以南の上川地方の下半分を撮ったものである。

旭川市を中心とした上川盆地は,石狩川上流に位置し,北から石狩川,忠別川,美瑛川の三河川が流下し,それらが合流して石狩川となり,神居古澤変成帯を貫流し空知地方へと流下している。

上川盆地の耕地は,約3.5万ヘクタールあり米どころとして知られ「上川百万石」といわれていたが,減反政策のため50%前後の水田が転作している。それでも主要作物は稲であり,「ゆきひかり」につづく新品種「きらら397」の良食味への期待は大きい。しかし,農家経営は稲作だけでは成り立たず,稲作と野菜や花卉の複合経営あるいは兼業の農家が多い。

土壌は空知地方と異なり,排水良好な砂礫質の低地土が多く,「おいしい米」生産の基盤となっている。とくに,10%前後の高い腐植含量をもつ暗色表層褐色低地土の面積が多く,その色は「白い米」と対照的である。この肥沃な低地土は腐植が多いために,転換畑では小麦に銅欠乏が発生して新たな問題になっている。

美瑛町から上富良野町にかけての丘陵地帯は北海道の中でも傾斜地畑が多いことで知られている畑作地帯である。最近ではその起伏に富む景観に人気があり,前田真三の写真集「丘の四季」にも農作物が美しい風景として写し出されている。その大地は火砕流堆積物を母材とした土壌で覆われており,良質の食用・加工用バレイショや小豆,小麦を生産している。この土壌は大粒の石英を含んでいるため,降雨後の表土はキラキラ輝いて生産力が高いことを誇っているようである。しかし,傾斜地のためにトラクターの作業能率が悪く,また表土の流亡による地力低下の恐れが大きい。その改良のため傾斜を6°前後に直す「勾配修正工」の大規模な工事がすすめられている。またクラストができやすい堅密固結性の表土の改良のために火砕流堆積物の砂客土が実施され,形のよい,肌の白いバレイショができるようになった。

右側には昭和63年12月中旬に噴火した十勝岳が見えている。十勝岳は昭和37年と大正15年にも爆発して,人命と農作物に大きな被害を与えている。

上富良野町から富良野市にかけては紫色の花をつけるラベンダーが栽培されており,観光客を集めている。富良野盆地は水田が多いが,火砕流台地は畑作地帯である。とくに富良野市周辺はタマネギ,ニンジンの主産地であり,収穫期には畑に捨てられた規格外ニンジンのオレンジ色が鮮やかで,まだ十分に食べられるのにといつも感じられる。さらにメロン,スイカ,ワイン用ブドウも栽培されており,より集約的な経営になっている。

このように上川の農業は,稲,野菜,花卉,畑作物と多様であり,これからは地域の土壌と気象を活用した高品質で低コストな農業へと進むであろう。

横井義雄(北海道立上川農業試験場)

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