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20.筑波(茨城)

豪雨で冠水した首都圏の食料基地

 <1986年8月6日観測画像>

この画像は1986年8月6日に観測されたもので,前項の1月の画像とほぼ同一地点を切り出してある。農業地帯は都市域に比べ画像の季節変化は大きい。1月の画像では筑波山の常緑樹や平地に点在する屋敷林だけが緑を留めていたのに,8月の画像ではほとんど全域が黄色から緑色に埋め尽くされ,いかに茨城県に農地が多いかを改めて認識させられる。

それもそのはず,茨城県は北海道を除くと農家戸数全国2位,農業従事者数同1位,耕地面積同2位,農業粗生産額同1位を占める農業県なのである。作物別にみてもハクサイ,クリ,葉タバコ等の生産は毎年全国上位に位置している。

画像では,南北に流れる川に沿って出穂期直前の水田が帯状に連っている。水田の間を埋めている黄色と紫色の混じったような色の部分は畑作地帯であるが,画像からは作目は特定できない。ただ,霞ケ浦北岸の黄色い部分は広大なレンコン畑である。また画像中央のあたり(大穂地区)で,黄色の強い部分はシバの栽培地点であろう。これらのシバがゴルフコースに張られると黄色の縞目模様になる。

さてこの画面の極めて特徴的・特異的現象としては,各地に浸水がみられることである。実は直前の8月4日から5日にかけて伊豆半島の南海上で温帯低気圧となった台風10号が北北東に進み,房総半島を縦断,茨城県を通過した。この結果,県南では200ミリから300ミリ,県北では所によって400ミリを越す記録的な大雨となった。この温帯低気圧は広い範囲に大雨を降らせたため,県内の各河川が急激に増水し,特に利根川支流の小貝川の石下町及び画面には一端しか現れていないが恋瀬川では,低気圧通過後の8月6日に増水がピークとなり,減水が遅れたため洪水警報が8日まで継続した。このため茨城県内各地の主な河川流域を中心に洪水による冠水等で大きな作物被害が発生し,県全体の推定被害総額は89億円に達したとされている。このうち,81%にあたる約72億円が水稲被害であった。これは水稲の生育ステージが丁度,冠水の影響を受けやすい穂ばらみ期から出穂直前であり,被害面積が18,900ヘクタールのうち,11,000ヘクタール(約58%)が1日から2日間冠水したため,冠水後における被害(白穂,幼穂枯死,穂首の折損,不稔もみ等)が多発したことによると推定される。

さて,この画像上を数本の河川が北西から南東方向に流れているが,最も東側で筑波山の西側から霞ケ浦に流れ込んでいるのが桜川,その西,つくば市を貫いて南北に流れているのが小貝川,さらに西側に鬼怒川,そして左下を利根川と江戸川がかすめているが,いずれの河川もふだんより川幅が数倍に膨らんでいる。特に小貝川は中央やや左上の付近で大きく広がり水田を被っている。これは前日の8月5日午前9時,この地点(石下町本豊田)で決壊したことによるものである。よく注意して見ると,水色の濁流水の中にうす黒く半月型の決壊流が流入している様子が映っている。水色の水面の他に水田の中に黒い斑紋が現れているが,これは停滞水により冠水した地点である。このような地点では水稲への被害は比較的軽微であり,むしろ明るい水色に見える地点ほど被害は大きかった。

秋山 侃(農業環境技術研究所)

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