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27.東京

岐路にたつ緑農都市

 <1989年8月14日観測画像>

機能集積都市,東京の素顔である。画像は,都心から西に約30キロメートルの範囲を納めたもので,時期は8月。画面を横切るのは多摩川。右上の角をかすめるのは荒川と隅田川,右下は東京湾がもう間近で,左上には狭山丘陵,左下には多摩丘陵という構図である。環状・放射状に張り巡らされた道路・鉄道網が,首都の神経そのもののようにみえる。

太田道潅による江戸城築城(1457年)以来,500年以上が経過した。幕末には,イギリスの園芸家ロバート・フォーチュンをして「その場所全体が一大庭園であった」といわしめた世界最大の庭園都市・江戸は,農林地に囲まれ,水鳥や小動物であふれる生態都市,都市と農村の物質循環を背景とした環境保全型都市でもあったといわれる。

戦前には,東京を放射環状緑地帯で囲むグリーンベルト構想があった。東京緑地計画の中で策定されたそのグリーンベルトには,普通の農地が多く含まれていた。画像中央部やや都心よりの一帯が,当時のグリーンベルトの一部に相当しよう。グリーンベルトは,その後,戦中には防空壕地帯,戦後には緑地地域として変質していくが,東京を公園や農林地の緑地帯で囲むという姿勢は一貫していた。しかし,市街地の外延的な拡大を抑えることはできず,1968年以降,市街化区域・調整区域の線引きへ吸収されてしまうのである。

さて,東京都農林水産部「農林水産業の概要(平成3年度版)」から,東京都の農業をみてみよう。区部や北多摩を中心に,大消費地を背景とした,コマツナ,キャベツ,ホウレンソウ,ウドなど生鮮野菜の生産が盛んだ。中央卸売市場における品目別,都県別取扱数量では,都内産取扱量は,コマツナ,ツナミナ,ウドで第1位,それぞれの占有率は79%,57%,51%である。また,キャベツは年間で,都内産取扱量が5位,季節別にみると,6月では1位(50%),11月2位(27%)と,春と秋に高い占有率を誇る。多摩地域を中心に植木類の栽培も盛んで,とくにグランドカバー植物の生産は,近年飛躍的に増加している。

東京都の耕地面積は,現在11,500ヘクタール。その約7割が市街化区域内にある。平成3年1月には,この市街化区域内農地を「保全すべき農地」と「宅地化すべき農地」とに峻別し,「保全すべき農地」は市街化調整区域への逆線引きまたは生産緑地に指定するという「総合土地政策推進要項」が閣議決定された。長期営農継続農地制度がなくなり,固定資産税および都市計画税の宅地並課税が実施されたらどうなるのか。生産緑地法の改正の効果は。地価高騰下での相続税。都市農業は重要な選択を迫られ,かつての緑農都市は今重大な岐路にたたされている。

井手 任(農業環境技術研究所)

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