Rice yields decline with higher night temperature
Shaobing Peng et al.,
Proceedings of the National Academy of Sciences
農業環境技術研究所は、地球規模での環境変化と農業・農業生態系との相互作用を明らかにし、対策技術や予測手法を開発することによって環境変動の緩和と農業生産の維持・向上を図ることを、重要な目的の一つとして、さまざまな研究を実施し、また関連情報を収集している。ここでは、気温の上昇が水稲の収量に及ぼす影響を、統計解析によって示した論文を紹介する。
要約
国際イネ研究所(フィリピン)で得られた1979年から2003年の気象データと、1992年から2003年の水稲収量データを解析した。その結果、2003年までの25年間で、最高気温と最低気温の年平均値はそれぞれ0.35度と1.13度上昇しており、最高気温と比べて最低気温の上昇が大きかった。
乾期(1〜4月)の水稲収量は、生育期間の平均最高気温との相関はなかったが、平均最低気温との間に非常に高い負の相関があった。最低気温が1度上昇すると収量は10%減少していたが、最低気温の上昇によって収量が減少する生理的なメカニズムは明らかにはなっていない。
この論文は2004年7月に、権威のある学術誌として知られる米国科学アカデミー紀要に掲載された。「最低気温が1度上昇すると水稲の収量が1割減少する」というこの論文の結論は衝撃的であり、水稲生産量の長期予測に大きな影響を及ぼすことになるかもしれない。しかし、その根拠は統計解析による収量と最低気温の相関関係のみであるため、詳細な検証がさらに必要と考えられる。このような地球温暖化の影響評価研究は、ともすれば結論だけがひとり歩きしかねないだけに、実験的、生理的な証拠を地道に積み重ねる必要がある。
(地球環境部 酒井 英光)