環境に負荷を与える農薬や肥料の使用を減らしながら生産性を維持するため、生態系の物質循環機能を生かした持続的な農業生産体系(環境保全型農業)を確立することをめざして、研究・行政・生産の場で懸命の努力が積み重ねられている。
本書は、環境保全型農業に関する科学的情報を生産者から消費者に至るすべての人々と共有したいという願いから、各分野の研究者によって執筆された。「総論編」では、稲、畑作物、野菜、果樹、飼料、畜産という農業生産の現場ごとに、環境保全型農業の内容がわかりやすくまとめられている。また、「各論編」では、総論編を構成する各要素、すなわち、土壌、肥料、雑草、病虫害について、詳細に説明し、生産現場に共通する環境保全型農業の実際、バイオマス資源、バイオテクノロジー、農業の多面的機能、地球環境の変化などについても、ていねいに解説している。
なお、本書の編さんには、農業環境技術研究所の現在の役職員(2名)と元職員(2名)が、編集委員としてかかわった。
目次
総論編
稲栽培/畑作物栽培/野菜栽培/果樹栽培/飼料牧草生産/畜産/農業技術のライフサイクルアセスメント/引用・参考文献
各論編
1章 土壌
土壌汚染/土壌侵食/砂漠化/問題土壌/土壌乾燥/過湿害/土壌微生物/土づくり/水利用効率/塩類集積/土壌病害/土壌動物/水汚染/酸性化/土壌呼吸/土壌窒素/土壌改良/バイオレメディエーション
2章 肥料と肥料成分の環境影響
施肥の意義/肥料の種類/肥料成分とその効き方/養分の欠乏と過剰/施肥効率とその要因/施肥の実態/肥料成分の土壌影響/肥料成分の水域環境への影響/肥料成分と無化学肥料/有機、環境保全型の農業/農業を支える微生物の窒素循環機能/農業を支える作物の機能/作物・土壌ならびに生態系の機能の活用/環境保全型施肥法/環境保全型農業における肥料成分管理の具体例
3章 作付体系
世界の輪作/輪作の歴史/土地利用計画/輪作体系/土壌と輪作/耕畜連携/田畑輪換/アグロフォレストリ/焼畑/都市農業/連作障害/カバークロップ(被覆作物)/アーバスキュラー菌根菌/作付様式/多毛作/適地適作/作期の移動/交換耕作
4章 圃場管理
精密農業/保全耕耘/精密施肥技術(水田)/精密施肥技術(畑)/精密防除技術/不耕起栽培技術/水利用技術/点滴灌漑/再生紙マルチ/生分解性プラスチック/農作業の環境負荷評価
5章 雑草
雑草の生活史/雑草の繁殖特性/雑草の埋土種子集団と種子休眠性/帰化雑草/雑草害の発生要因/雑草の許容限界/雑草の生態的(耕種的)防除/雑草の機械的防除/雑草の生物的・物理的防除/アレロパシー/雑草の化学的防除/雑草の除草剤抵抗性生物型
6章 病虫害
病害の生物的防除/微生物による病害防除/弱毒ウイルス/農薬に依存しない土壌消毒/ 病害の物理的・耕種的防除/病害抵抗性品種/天敵昆虫農薬/天敵微生物農薬/土着天敵の保護利用/性フェロモン/選択性農薬/線虫対抗植物/虫害の物理的防除/発生予察/ 総合的有害生物管理
7章 バイオマス資源
バイオマス資源の発生量/汚泥/食品加工残渣/林産・農業廃棄物/生ごみ/家畜排せつ物/バイオマス資源と重金属/バイオマス資源と病原性微生物/堆肥化/成分調整堆肥/ 乾燥処理肥料/石灰処理肥料/有機質資材の品質/堆肥の環境保全的施用法/炭化処理/ メタン発酵/廃食油のエネルギー化/バイオマスのエネルギー化システム
8章 バイオテクノロジー
植物利用による大気および土壌汚染の修復/環境負荷化学物質の浄化植物の開発/野生スイカの耐乾遺伝子を導入した作物の開発/酸性土壌に適応できる組換え作物の開発/硝酸態窒素成分を軽減した組換え飼料作物/高栄養・高嗜好性熱帯牧草の開発/マルチ環境ストレス耐性組換え作物/導入遺伝子をすべて作物由来とした複合病害抵抗性イネ
9章 多面的機能
農業の環境便益/農業の多面的機能/水循環を制御する機能/環境負荷を除去・緩和する機能/生物多様性を保全する機能/景観を保全する機能/地域社会を振興する機能/伝統文化を保存する機能/人間性を回復する機能/人間を教育する機能/食料を持続的に供給する機能/多面的機能の評価/新農業基本法と多面的機能/農業環境政策と多面的機能
10章 地球環境変化
地球温暖化が農業に及ぼす影響/CO2濃度上昇が農業に及ぼす影響/地球の炭素循環と農業/地球の温室効果ガスと農業/地球の窒素循環と農業/地球の水資源と農業
11章 畜産
抗病性の改良による薬剤投与量の減量化/家畜から排泄される環境負荷物質(窒素・リン)の低減と飼料設計/養豚における飼料中の銅・亜鉛低減化/反芻畜からのメタン産生抑制/ 環境を考慮した敷料の選択/畜舎内環境管理/食品残渣の飼料利用/放牧の役割/畜産におけるライフサイクルアセスメント/アイガモ農法/酪農における物質循環/持続的畜産のための繁殖戦略