地球白書は、1984年ワールドウオッチ研究所初代所長のレスター・ブラウンにより創刊され、2002年(2002−03年)以降は、所長交代に伴いクリストファー・フレイヴィンが編著者となって毎年出版されている。本書はワールドウオッチ研究所の年次報告書として、その時々に地球規模で起きているグローバリゼーションの動きを明確化することを使命としている。
2005−06年版は「グローバル・セキュリティー」に焦点が当てられ、人間社会と自然界が混乱している状況において、その不安感の根源を探ることをテーマにしている。水不足・水質悪化による国際紛争、エイズなど感染症のまん延、国境を越える国際犯罪、増加する人口・失業・環境難民などによる人口構造の変化、テロリズム、気候変動による食料生産への影響など、新たな課題が今日の世界のジレンマであると指摘している。これらの課題には環境問題と関係ない事象も含まれているように思えるが、実は環境問題と社会問題は表裏一体であり、これらのつながりを解き明かすことを試みている。
人類社会の新たなグローバル・セキュリティー(世界の安全保障)問題に対応するための有効な方策を提示し、全世界的な規模でのグローバル・セキュリティーのシステム化が必要としている。なお、環境的に持続可能な世界を築くため、冷戦とセキュリティー問題の終結に主要な役割を果たしたミハイル・ゴルバチョフ元ソ連大統領が、「本書に寄せて」を執筆している。
目次
本書に寄せて
はじめに
環境界の1年間の主要動向
第1章 グローバル・セキュリティーを脅かしているのは何か
◆インセキュリティーの根本的原因
◆不幸な隣人と危うさを共有
◆武器管理と紛争回避
◆対テロ戦争のインパクト
◆より安全な世界をつくるための原則
国際犯罪
第2章 増加する人口、失業、エイズ、資源戦争、環境難民
◆世代間の衝突
◆HIV/エイズの高まる脅威
◆急増する都市人口
◆水と耕地をめぐる争奪戦
◆リスクを最小化し、前進すること
環境難民
第3章 感染症を封じ込めてマイクロ・セキュリティーを
◆病気発生のダイナミクス
◆「マイクロ・セキュリティー」の現状
◆感染症の経済的影響
◆将来の病気の発生を食い止める
侵略する生物たち
第4章 BSEを発生させたセンスとフード・セキュリティー
◆農業における多様性の喪失
◆食を脅かすもの
◆気候の変動
◆新しい脅威への新しい取り組み
有害化学物質
第5章 水不足がもたらすグローバル・インセキュリティー
◆主要課題
◆国際河川
◆国内における争い
◆地域へ与える影響
◆水をめぐる紛争と協力
◆協力的な水管理体制へ向けて
豊富な自然資源と紛争
民間セクター
第6章 あまりにリスキーな中東石油への依存症
◆戦略的商品
◆石油と世界経済の安全保障
◆石油と市民のセキュリティー
◆石油と気候のセキュリティー
◆進路の分岐点
原子力エネルギー
第7章 地雷との訣別、しかしながら先進国も途上国も核への固執
◆世界の「無法地帯化」
◆取引と略奪と密輸
◆限定的な対応
◆戦闘から市民生活へ
核の拡散
化学兵器の拡散
第8章 環境協力を通してヒューマン・セキュリティーを確立する
◆環境と紛争の関係:その沿革
◆なぜ環境が平和建設の手段になるのか
◆環境協力を用いて平和を構築する
◆残る課題
◆環境を通しての平和建設を実現する
戦争が環境に及ぼす影響
第9章 グローバル・セキュリティーをめざしての挑戦
◆世界のガヴァナンスを改革する
◆政府の優先項目を変更する
◆市民社会の参加
原注
さくいん
日本語版あとがき