科学技術の発展によって、大量生産−大量消費−大量廃棄という経済の発展を優先する20世紀の社会が作り出された。われわれは大量の人工物に囲まれ、豊かな生活をすることが可能になった。だが、そのような人間の経済活動によって、大気、水、生物、土壌などに異変が起きはじめ、地球規模の環境悪化をもたらすまでになった。
21世紀においてもこのようなライフスタイルや経済システムを維持することは不可能であり、価値観の大転換が求められていると、この本の著者は言う。ただし、それは昔のくらしに逆戻りすることではなく、地球の限界と折り合える新しい経済社会システムを作り出すことである。
この本の前半では、新たな社会の構築に向けた地域、企業、NGOなどの取組みが紹介される。第1章の最後には、霞ヶ浦の大自然を復活させるための、アサザ・プロジェクトの「100年計画」が紹介されている。10年ごとの達成目標を実現していけば100年後にはコウノトリやツルやトキが住めるようになるという壮大な計画である。一度損なわれてしまった自然(生態系)を復元するにはそれくらいの年月が必要なのである。
一方、本の後半では「環境と経済の両立」に向けた将来ビジョンが語られる。「フロー」重視から「ストック」重視へ、すなわち、モノを大量に生産・消費・廃棄する物質的な豊かさから、サービスを重視してモノを上手に長く使う生活の質の高さへの移行が不可避である。その出発点として「人間は自然界の一部に過ぎない」という認識が必要である。これからは、自然を征服・支配する技術ではなく、自然から学び、自然と共生するための新しい技術の開発が重要であり、これまでの利便性を追求する技術は環境保全に活用すべきであると提言する。
社会システムを変革するためには、過去を延長して将来を予測する「フォアキャスティング」ではなく、将来の目標を定めてそれに必要な対策をとる「バックキャスティング」が重要であると述べ、バックキャスティングを活用した日本経済グリーン化のシナリオ作りを提案する。「環境立国」を21世紀の日本の新たな国家目標とすべきであり、そのための動きは始まっている。あとは日本人が少しずつ変わる勇気を持つことで、日本は見違えるほど活気のある国になる、と著者は結んでいる。
この本には、抽象的な経済学の議論はほとんどなく、現場での具体的な取組みが詳しく紹介されている。技術者の側から、あるいは一般市民の立場から「環境経済」を考えるための格好の入門書となるだろう。
目次
序
第1章 自然環境の復元に挑む
1 富士山から煙突がなくなる日
2 市民型公共事業−霞ヶ浦アサザプロジェクト
第2章 地域価値の発掘者たち
1 緑の油田に挑む菜の花エコプロジェクト−滋賀県環境生協
2 環境文化都市づくりに挑む−南信州人の心意気
3 日本一の自然エネルギー基地を創ろう−岩手県葛巻町
第3章 新しいビジネスモデルの構築−常識の壁に挑む
1 ベルトコンベアからセル生産方式への転換
2 企業と環境NGOとのコラボレーション
第4章 ストックを大切に使う−サービス重視の経済へ
1 フローの時代からストックの時代へ
2 既存品を上手に使いこなす市場
第5章 環境立国に向けて−循環型社会への道
1 地球の限界と折り合う知恵
2 バックキャスティングという考え方
3 グリーン化モデルで日本経済を活性化させる
あとがき