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情報:農業と環境 No.65 (2005.9)
独立行政法人農業環境技術研究所

本の紹介 178: 新農業気象・環境学、長野敏英・大政謙次 編、朝倉書店 (2005) ISBN 4-254-44025-1

本書は、旧版「農業気象・環境学」を全面的に書き直し、内容も一新して、新たに編纂(へんさん)された大学学部・短大学生・農業技術者向けの教科書である。

農業気象・環境学は、生物あるいは生物生産とそれを取り巻く環境との関係を取り扱う学問である。したがって、農業気象・環境学は、気象災害や地球環境問題などのような気象・気候学的な分野と、施設農業に代表されるような環境調節学の分野とが有機的に結びついた新しい学問分野であるという認識に基づいて、本書は編纂されている。

本書の構成を見てみよう。1章から4章までを気象・気候学的な内容の叙述に当て、6章と7章では環境調節に関する内容について叙述し、5章において前者と後者に共通の基礎となる「環境と植物反応」についての叙述を配している。さらにまた、必要に応じて個々の章で計測方法やモデリングなどについての知識を与えているが、共通の基盤となる計測手法や解析手法については、3章と5章で重点的に記述している。

農業気象・環境学に関し、第一線で活躍している多くの学者・研究者が執筆陣に加わり、多様かつ豊富な内容を網羅している本書は、この分野についての最新の知識を得る上で恰好である。

目次

1.気候と農業

1.1 日本の気候の特徴

1.2 作物の温度要求度

1.3 生産力と気候

(1) マイアミモデル (2) 筑後モデル

1.4 農業気候資源

(1) 温度を用いた指標 (2) 期間の長さを用いた指標 (3) 複数の要素を組み合わせた指標

1.5 地形気候と農業

2.地球環境資源と農林生態系

2.1 気候変動

(1) 気候変動と収量変動 (2) 温暖化 (3) 温暖化の作物生産への影響

2.2 砂漠化

(1) 砂漠化の実態 (2) 世界の砂漠化 (3) 砂漠化の防止対策 (4) 中国の砂漠化

2.3 酸性降下物

(1) 酸性降下物の種類 (2) 湿性・乾性沈着量と土壌酸性化 (3) 酸性降下物の陸上生態系、湖沼への影響 (4) 酸性降下物の植物影響 (5) エアロゾルの影響

2.4 森林破壊

(1) 森林破壊の現状 (2) 森林破壊に伴う熱環境問題 (3) 熱帯林の物質生産機能

2.5 リモートセンシングによる観測

2.6 環境情報と生態系モデリング

(1) 環境情報 (2) 生態系モデリング

3.耕地の微気象

3.1 放射環境

(1) 放射の定義と分類 (2) 放射の基本法則 (3) 日射 (4) 長波放射と放射収支 (5) 放射の計測

3.2 温度環境

(1) 気温と大気の熱輸送 (2) 地温と地中の熱伝導 (3) 温度の測定

3.4 水環境

(1) 耕地の熱収支 (2) 土壌中の水分 (3) 土壌中の水分移動

3.4 風環境

(1) 流体の流れ (2) 境界層 (3) 運動量・熱・物質の輸送 (4) 耕地の風 (5) 耕地からの運動量・熱・物質の輸送 (6) 風の測定

3.5 耕地の環境調節

(1) 耕起、うね立て (2) トンネル (3) マルチ (4) べたがけ

3.6 微気象モニタリングシステム

(1) 微気象モニタリングシステムの特徴 (2) 微気象モニタリングシステムの構成要素 (3) ワイヤレス・センサネットワーク (4) 微気象モニタリングの例

4.農業気象災害

4.1 冷害

(1) 冷害の発生実態 (2) 冷害の発生メカニズム (3) 冷害の防止対策

4.2 霜害(凍霜害)と寒害(凍害)

(1) 霜害・寒害の発生実態 (2) 霜害・寒害の発生メカニズム (3) 霜害・寒害の防止対策

4.3 風害

(1) 強風害の発生実態 (2) 風害の発生メカニズム (3) 風害の防止対策

4.4 干害

(1) 干害の実態 (2) 干害の発生メカニズム (3) 干害の防止対策

5.環境と植物反応

5.1 光合成と環境

(1) 気流環境 (2) 光環境 (3) 温度環境 (4) 湿度環境 (5) CO環境 (6) 気流、大気湿度および光強度の複合影響 (7) 土壌環境

5.2 水分生理と環境

(1) 作物体内の水分状況とその測定法 (2) 作物体を取り巻く水移動 (3) 水ストレスと作物生育

5.3 栄養生理と環境

(1) 植物の栄養と養分環境 (2) 根による養分吸収と根圏環境 (3) 篩部輸送 (4) 施肥

5.4 遺伝子情報と環境

(1) 環境ストレスの診断 (2) DNAアレイ法 (3) DNAアレイ法を用いたストレス特異的な発現をする遺伝子の同定 (4) マイクロアレイ法によるストレスモニタリング手法の開発 (5) マクロアレイ法によるオゾン反応性遺伝子群の単離 (6) ミニマクロアレイを用いた各種ストレスの遺伝子診断

5.5 植物反応の画像計測

(1) クロロフィル蛍光画像計測法 (2) 熱赤外画像計測法

6.施設の環境調節

6.1 温室と植物工場

(1) 熱収支と気温 (2) 光環境とその改善 (3) 換気 (4) 冷房 (5) 保温と暖房 (6) 植物工場

6.2 組織培養と環境調節

(1) 小植物体で増殖する場合の環境調節 (2) 不定胚培養の環境調節

6.3 畜舎の環境調節と家畜の排泄物処理

(1) 畜産業の発展と課題 (2) 畜舎の環境調節 (3) 家畜の排泄物処理

6.4 CELSSと宇宙実験

(1) 閉鎖生態系生命維持システム (2) 系内の物質循環 (3) 宇宙の環境要因と栽培技術

6.5 作物生育モデリングと情報ネットワーク

(1) 作物生育モデルの種類 (2) プロセス積上げ型モデル (3) 生育シミュレーション (4) 情報ネットワークとコンピューターシミュレーション

6.6 コンピューター支援システム

(1) コンピューター環境調節システム (2) 自立分散型環境調節システム (3) 営利的植物生産のためのコンピューター支援システム

7.グリーンアメニティ

7.1 室内・屋外緑化とアメニティ

(1) アメニティへの希求 (2) 緑化に期待される効果 (3) 近年着目される緑化空間

7.2 植物のもつ環境浄化機能

(1) 植物葉におけるガス交換 (2) 植物葉における大気汚染ガスの吸収 (3) 大気浄化に適した樹木

7.3 樹木の香気

(1) 香気の成分と濃度 (2) 香気成分の放出 (3) 香気成分の測定方法

7.4 都市緑地の景観シミュレーション

(1) 景観シミュレーション (2) 植物モデリングを用いた景観シミュレーション (3) VRMLを用いた景観シミュレーション

索引

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