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情報:農業と環境 No.66 (2005.10)
独立行政法人農業環境技術研究所

論文の紹介: 1グラムの土壌中には数百万種もの多様な細菌がいる

Computational improvements reveal great bacterial diversity and high metal toxicity in soil.
J. Gans, et al. Science, 309, 1387-1390 (2005)

1グラムの土壌の中には数10億にも及ぶ膨大な数の細菌が存在しているが、その種数はどのくらいであろうか。今から15年前、Torsvik らは、土壌から細菌を分離し、そこから抽出したDNAの配列の多様性を調べることにより、それらは1万種に及ぶことを明らかにした(Applied and Environmental Microbiology 56, 782 (1990))。この1万種という数字が15年ぶりに書きかえられた。それも2桁も高い100万種に。

まず、15年前である。細菌の種の多様性はDNAの多様性で表される。そしてDNAの多様性は、ランダムに切断し、変性して1本鎖にしたDNAを、溶液中で2本鎖に復元(再会合、アニーリング)させたときの、復元速度から求めることができる。詳細は省略するが、このようにして、土壌から抽出したDNAについて変性−再会合実験を行い、多様性を計算した結果、土壌1グラム中の種の数は、13,000種という、それまで想像されていなかった高い値になった。

次に、最近Science誌に掲載された論文である。上述のTorsvikらは、土壌試料中の細菌の、すべての種の存在頻度(菌数)が同じであると仮定していた。Gansらは、このようにして求めた多様性(種数)は過小評価されているとして、存在する菌数が種ごとに異なる(配列によってコピー数が異なる)場合の新たな計算方法を考案した。

この方法で、Sandaaら(FEMS Microbiology Ecology, 30, 237 (1999))の重金属汚染土壌を対象にした文献データを再計算した。その結果、元の文献では非汚染土壌で約1万種、汚染土壌で数千種と推定されていたのに対して、それぞれ800万種、8千種と、はるかに大きな値となった。また、重金属汚染土壌では種の多様性が99.9%も減少していた。一方、細菌のバイオマス(全菌数)は、汚染土壌、非汚染土壌とも2×10と変わらなかった。さらに計算によると、1グラム土壌あたり10以下という低頻度で存在している細菌が、土壌の細菌の多様性の99.9%を占め、これらのいわばマイナーな菌が重金属汚染により駆逐されたことになるという。

多様性研究の目的は、土壌の微生物多様性マップの作成、モニタリングによる環境かく乱の検出などである。再会合実験は、ブラックボックスとされてきた土壌微生物の多様性を解析するための唯一の有効な方法と言える。ただし、この方法は、原理は簡単だが、正確な結果を出すのは容易ではない。抽出したDNAは十二分に純粋でなくてはならないし、相手にする配列の多様性は並ではない。

配列の多様性ならシークエンス法が早いと考えたいところである。しかし、土から抽出したDNAをPCRによって増幅した後、シークエンスという常套手段によって同様な結果を得るためには、仮に土壌1グラム中の細菌の種数が1万であったとしても、100万回以上の16S rDNA断片のシークエンスが必要になるという。この論文の方法にかわる有効な方法はなさそうである。

(企画調整部 宮下 清貴)

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