第22回農薬環境動態研究会が、9月28日に農業環境技術研究所で開催されました。
午前中に、「農薬の多成分一斉分析 −需要動向と手法開発−」というテーマで5人の講師にご講演をいただきました。無登録農薬問題に端を発して、平成15年3月に農薬取締法が改正され管理が強化されました。また食品衛生法でも平成15年5月に「食品衛生法等の一部を改正する法律」が公布され、食品に残留する農薬について、平成18年度にポジティブリスト制度が導入されます。さらに平成15年5月には「水道水質基準の省令」が改正されました。
これらの行政的背景だけでなく、近年残留農薬に関する国民の関心はきわめて高く、食品の安全性の確保やその環境影響の評価のために残留農薬の監視が強化されています。そのために最近多種類の農薬を効率よく測定する技術として多成分一斉分析法に関する需要と関心が一層高まってきているわけです。しかしながら、多成分一斉分析法には、新規剤の登録などによる分析対象農薬の変化への柔軟な対応や、分析困難な農薬への対応など、解決すべき問題点もたくさん残されているのが現状です。農作物、土壌、水、大気など、さまざまな試料中の農薬分析が求められています。
そこで第22回研究会では、農薬の多成分一斉分析に関する行政的ニーズを把握するとともに、分析法の技術的課題を抽出して、今後の残留農薬の安全性評価に向けた研究のあり方を探ることをめざしました。以下にその概略を示します。
開催日時: 平成17年9月28日(水)9:00 − 15:00
開催場所: 農業環境技術研究所 大会議室
参加人数: 127名
所内:38名
所外:89名(独法:5、大学:2、公立農試:46、行政:5、関連団体:31名)
講演会の内容
午前中の講演には、セッション1(多成分一斉分析の需要動向、講演1〜2)とセッション2(多成分一斉分析の手法開発、講演3〜5)の2つのテーマがありました。
講演1では、「食品に残留する農薬等のポジティブリスト制度について」の演題で近藤卓也氏(厚生労働省)から話題提供がありました。食品衛生法に関連したポジティブリスト制度の導入や、そこにおける各種基準(一律基準・対象外物質・暫定基準)をどのように設定するかについて概要が紹介されました。
講演2では、「水道における残留農薬の監視について」の演題で相澤貴子氏(横浜市水道局)から話題提供がありました。水道法に関連して、水道における残留農薬に対する規制や農薬の検査方法や実態調査について、神奈川県における膨大な実績とともに解説されました。
講演3では、「抽出法・精製法など前処理手法の開発動向」の演題で渡邉栄喜氏(農環研)から話題提供がありました。多成分一斉分析を念頭において、農薬等の各種抽出法や精製法の慣行法から新規の技術に至るまで、原理および利点・欠点を一つ一つ整理して報告されました。
講演4では、「質量分析計を中心とした測定機器の種類と開発動向」の演題で石坂眞澄氏(農環研)から話題提供がありました。質量分析計の種類と原理について、図式とともに詳細にかつわかりやすく解説された後、多成分一斉分析との関連から、どの分離装置(GCまたはLC)をどの質量分析装置と組み合わせたらよいかについても説明されました。
講演5では、「多成分一斉分析法における現状と課題」の演題で飯島和昭氏(残留農薬研究所)から話題提供がありました。GC−MSを中心に、多成分一斉分析における感度変動を中心に、実証データを基にこれらの技術開発の現状と今後の課題について紹介されました。
論議の内容など
午後には、都道府県農業関係試験研究機関の平成16年度研究成果概要書に基づいて、講演会で取り上げた多成分一斉分析のほか、イムノアッセイ、モニタリング、ドリフトの合計4グループに分かれて、それぞれ3つのパートを持ち、全部で12課題の試験成績の発表と討議(各課題30分ずつ)を行いました。
午前中のテーマは、農薬に関わる省庁横断的に注目されている、きわめて今日的な話題であったため、例年以上の盛り上がりを見せました。また午後に取り上げたトピックは4つとも都道府県試験場が現在取り組んでいる重要な研究課題であったため、活発な質疑や意見交換が行われて、今後につながる論議を深めることができました。
食品や飲料水の安全・安心に対する国民的関心の高まりとともに、分析の対象となる作物や農薬の種類が膨大に増えている反面、現実には分析の実施において人的・予算的・時間的制約が大きいのも事実です。その意味でも多成分一斉分析法は今後ともきわめて重要な技術として位置づけられていくことでしょう。この研究会を通して、分析を担当する各機関が抱えているさまざまな問題点を整理して、情報交換をさらに積極的に進めることにより、少しでも早く解決できることを願います。