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情報:農業と環境 No.68 (2005.12)
独立行政法人農業環境技術研究所

資料の紹介: 農業の基本問題に関する調査研究報告書31 コメ政策の新たな展開と水田営農システム転換の課題(2)、 (財)農政調査委員会(2005)

わが国の水田農業は、担い手の再構築、米価低落傾向の中での産地づくりという、極めて困難な大きな課題を抱えている。「確かに日本農業は現在、未曾有の危機的状況に突入しつつある。しかし、危機はまた成長・発展の契機でもあるのが歴史の教えるところであろう。危機に陥る前に危機的状況が訪れることを察知して対処する」と、著者の一人谷口信和は述べる。本書は、地域水田農業ビジョンの内容を分析し、水田農業地域の現場で創意と工夫を重ねて水田農業の構造改革に取り組んでいる姿を明らかにすることを通じて、全国各地での水田農業の危機的状況への「対処」に示唆を与えることを意図している。

本書では、北海道南空知地域における法人経営の増加、秋田県合川町および静岡県磐田市における担い手への農地利用集積、茨城県霞ヶ浦湖岸兼業低湿水田地帯における農業構造、茨城県下館市JA北つくばにおける売れる米づくりの取組み、新潟県三島郡和島村における圃(ほ)場整備事業を契機とした集落営農組織の法人化、石川県小松市における個別規模拡大による個別経営体の展開、福岡県福岡市および筑前町における産地づくりの取組み、滋賀県での環境こだわり農産物のブランド化による売れる米づくりなどの事例を分析の対象に取り上げて、異なる地域状況の下に展開されている担い手育成、売れる米づくりによる産地づくりの現状を明らかにしている。また、米生産目標数量の市町村配分の全国的な動向も整理し、市町村別配分数量に格差をつけた事例として新潟、滋賀、福岡の事例を検討している。

目次

第 I 章 米政策改革から新基本計画に基づく構造改革へ

1.米政策改革がめざしたもの

2.米政策改革から新食料・農村基本計画に基づいた構造改革

3.構造改革最先進地における更なる改革への模索

(1) 営農部会プロジェクトの出発点における問題意識  (2) 今日の段階でのあいち中央農協管内の農業をめぐる二大問題  (3) 問題解決のための前提条件・将来見通し  (4) 具体的な解決策提言

第 II 章 米生産目標数量の市町村別配分と地域農業――新たな生産調整をめぐる1年目の課題――

1.不作下での価格低下と過剰作付の進展

2.「地域水田農業ビジョン」と変革への可能性

3.市町村別の生産目標数値―― 一律配分からの脱却

4.市町村別目標数量配分に配慮した県における市町村間の格差

(1) 新潟県――需要実績と改革要素にシフト  (2) 福岡県――生産者の独自販売、農協単位の結びつきの強化  (3) 滋賀県――販売戦略と環境こだわり農業への配慮

5.滋賀県における水田農業構造と米改革への対応

(1) 大規模稲作経営、兼業農家、集落営農の併存構造  (2) 米改革、環境こだわり農業の推進と大規模稲作経営、集落営農  (3) 集落営農の展開、特徴と「米」改革、環境保全型農業  (4) 大規模稲作経営と米改革、環境保全型農業

6.担い手育成や米のマーケティングに沿った地域水田農業へ

第 III 章 北海道央水田地域における担い手の新たな動向――南空知地域における法人化の背景と特徴――

1.はじめに

2.北海道水田作地域における農地供給過剰化と農家経済悪化

(1) 水田地域における後継者不在農家の増加と農地需給構造の変化  (2) 経営収益の悪化と負債問題

3.北海道における法人化の動向と水田作生産組織の法人化意向

(1) 北海道における法人化の推移  (2) 水田作生産組織の法人化意向

4.北村における法人化の動向と特徴

(1) 北村における法人化の動向  (2) 北村における法人経営の実態  (3) 北村における法人の特徴

5.南幌町における法人化の動向と特徴

(1) 南幌町における法人化の経緯と特徴  (2) 南幌町における法人経営の実態と事業多角化

6.おわりに

第 IV 章 「地域水田農業ビジョン」の展開と担い手への農地利用集積の実態・課題

はじめに

1.秋田県合川町における水田営農の展開と課題

(1) 合川町の農業の概要  (2) 合川町の水田営農の実態  (3) 地域水田農業ビジョンの概要と取組状況  (4) 担い手への農地利用集積の実態  (5) 合川町における担い手の動向――有限会社F農産の場合――

2.静岡県磐田市における水田営農の展開と課題

(1) 磐田市農業の概要  (2) 磐田市の水田営農の実態  (3) 「地域水田農業ビジョン」の概要と取組状況

3.まとめ――水田農業の担い手を多元的・連関的に捉える視点――

(1) 水田農業の担い手としての「農業邦人化」の類型  (2) 農村地域社会における「農業のプロ」の位置づけ  (3) 「集団的土地利用」と個別経営の連携の課題

第 V 章 霞ヶ浦湖岸低湿水田地帯における水田農業構造――茨城県美浦村の事例――

1.美浦村における水田農業ビジョンへの取り組み状況

(1) 地域の概要  (2) 美浦村における水田農業ビジョン  (3) 水田農業ビジョン取り組みの成果と課題

2.兼業低湿水田地帯における農業構造

(1) 進む農業労働力の高齢化・脆弱化とようやく進み始めた農地流動化  (2) 大須賀津集落――定年退職後に農業専従に転じた高齢者層と不況に伴い農業専従に転じた壮年層――  (3) 大山集落――構造変動は停滞するも転作野菜は定着、米価低落が「兼業稲作」構造をどう変えるか――

3.おわりに――霞ヶ浦湖岸低湿水田地帯における農業構造変動の行方――

第 VI 章 JA北つくばにおける米政策改革への果敢なる挑戦――量販店PB米・特別栽培米・担い手育成の同時実現をめざして――

1.はじめに

2.地域概況と前史としての団地的転作の意義

(1) 下館市農業の概況  (2) ブロック・ローテーションによる転作  (3) 田谷川地区の概況

3.売れる米づくりの模索と量販店契約栽培米への挑戦

(1) インショップ野菜から量販店契約栽培米へ  (2) 契約栽培米の生産・流通システム  (3) 契約栽培米の生産状況  (4) 契約栽培米と担い手  (5) PB米生産と団地化の推進

4.農地保有合理化事業を通じた構造再編

(1) 担い手問題の顕在化  (2) 構造再編のシナリオと現実の担い手の多様性

第 VII 章 食品スーパー主導型地産地消システムの形成――減農薬・減化学肥料PB米への取組を通して――

1.取組の背景――食品・米小売業の現況――

(1) 食品小売業の構造変動  (2) 消費者の購買行動の変化  (3) 中規模スーパーチェーンとしてのエコス

2.エコスグループの概要・戦略

(1) エコスの概要  (2) エコスの企業戦略

3.エコスPB米の沿革・現況

(1) PB米の沿革  (2) PB米の現況

4.エコスPB米の生産・流通システム

(1) 契約  (2) 生ゴミの分別回収  (3) 堆肥の製造  (4) PB米の生産・貯蔵  (5) 集荷調整・配送  (6) 販売

5.システムの特色

(1) 食品廃棄物のリサイクルについて  (2) 既存流通ルートの活用  (3) 部分的な循環型農業  (4) 北関東を中心とした地産地消

6.論点と今後の方向性

(1) 信頼関係を軸としたシステムの構築  (2) 私的利害と公共の利益とのバランス  (3) 消費者ニーズの把握に向けて

第 VIII 章 ほ場整備事業を契機とした生産組織の設立による農業構造の変化と組織の法人化――新潟県三島郡和島村を事例に――

1.はじめに

2.集落営農組織の活動の特徴

(1) 稲作を中心とした活動の特徴  (2) 集落――農場化と特定層への水田集積

3.村、農協による集落営農組織の設立、法人化の推進

(1) 生産組織設立の背景  (2) 生産組織設立集落の概況  (3) 独自販売による経営転換

4.おわりに

第 IX 章 石川県における「地域水田農業ビジョン」の展開――小松市および大規模経営体の対応――

1.本稿の課題

2.小松市における「水田ビジョン」の概要と展開

(1) 「水田ビジョン」の概要  (2) ビジョンの進捗状況と成果  (3) 「蛍木」生産の増大とJAあぐりの取り組み

3.大規模経営体の対応

(1) 有限会社・たけもと農場(能美郡・寺井町)  (2) 東田農産(小松市)  (3) 農事組合法人・和多農産(濃美郡・辰口町)  (4) 有限会社・すえひろ(珠洲市)

4.農業生産法人等の新たな動き

第 X 章 福岡県における地域水田農業ビジョンの取り組み

1.福岡県における米生産目標数量および産地づくり対策交付金の配分方針

(1) 福岡県における米生産目標数量の配分  (2) 福岡県における産地づくり対策の配分

2.福岡市における水田農業ビジョンへの取り組み

(1) 福岡市の農業生産の特徴  (2) 福岡市における「地域農業ビジョン」の取り組み  (3) 福岡市における地域水田農業ビジョンの特徴と課題

3.筑前町・夜須地域における水田農業ビジョンへの取り組み

(1) 夜須地域の農業生産の特徴  (2) 夜須地域における「地域水田農業ビジョン」の取り組み  (3) 夜須地域における地域水田農業ビジョンの特徴と課題

おわりに

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