さる11月28日、つくば国際会議場(エポカルつくば)において、標記の研究成果発表会が開催されました。
(開催の趣旨)
昨今環境中に長い間残存してヒトや環境に悪影響を及ぼす有害化学物質について国際的対応が急がれています。総合科学技術会議では化学物質リスクの総合管理技術に関する研究の必要性を示しており、残留性有機汚染物質(通称:POPs)やカドミウムを対象とするプロジェクト研究「農林水産生態系における有害化学物質の総合管理技術の開発」が、農業環境技術研究所を中心として平成15年度から開始されました。
この成果発表会では、そのうちPOPsなどの有機化学物質に焦点を絞って、プロジェクトでこれまで得られた成果を紹介し、今後の研究戦略や課題について議論しました。
(参加者数)
参加者数は171名でした(内訳は、農業環境技術研究所43名、他の独立行政法人31名、大学24名、公立試験研究機関16名、行政10名、関連団体46名、報道関係1名)。
(講演など)
○基調講演 「有機化学物質のリスク評価とリスク管理」
関澤 純(徳島大学)
○リスク評価に関する一般講演
1.POPsの挙動に関するマルチメディアモデルの開発
小原裕三(農業環境技術研究所)
2.水生生物に及ぼす農薬の影響評価法
石原 悟(農業環境技術研究所)
3.トリブチルスズが魚類の精子形成に及ぼす影響の評価
持田和彦(瀬戸内海区水産研究所)
4.酪農におけるダイオキシンの動態解明
山田明央(畜産草地研究所)
○リスク低減化に関する一般講演
5.土壌からの環境汚染物質分解酵素遺伝子の探索
津田雅孝(東北大学)
6.有機塩素系化合物分解菌の分子育種
古川謙介(九州大学)
7.複合分解菌集積炭化素材を利用した農薬の分解
高木和広(農業環境技術研究所)
8.作物によるドリン系農薬吸収制御技術の開発
石坂眞澄(農業環境技術研究所)
○ポスター発表:33題
(論議の内容)
研究内容については、有害化学物質に関して以下のような議論がされました。
第一に化学物質の環境中挙動の把握です。特に地球規模の有害化学物質の動態や長期的な減衰については、数理モデルやモニタリングデータを有効に活用して、リスク管理をより合理的に進めることが必要となります。
第二に予防原則です。POPsやカドミウムのようにすでに汚染されていたり、農薬のように農業用資材として農地に散布されたりする化学物質のリスク評価においては、予防原則を単純に考えることは難しいといえます。そのことを配慮した対策が必要です。
第三にリスク管理です。農業生態系においては、POPsや農薬に限らず、有機スズやカドミウムなどの重金属も、薄く広く環境を汚染しています。これを面源汚染といいますが、そのリスク管理に対して本プロジェクトをどのように位置づけるかが、今後の課題としてあげられました。
第四に対策技術の実用化です。カドミウムに対しては、ファイトレメディエーションや化学的処理等の実用化技術が開発されているものの、有機化学物質に対するリスク低減化技術の開発は遅れています。その実用化に向けた取り組みを強化する必要性が指摘されました。
またこのプロジェクトに特化した問題ではありませんが、わが国の化学物質のリスク評価や管理が、国際的に遅れを取っていることが指摘されました。なお、現在、カドミウム、鉛、砒(ひ)素、水銀などの重金属はコーデックス委員会において国際基準の策定が行われており、またPOPsはPOPs検討委員会において新規にPOPsを追加することが国際的に検討されています。
これらの議論を踏まえて、本プロジェクトが達成すべき目標について、今後さらに明確化や重点化を図るとともに、今回の発表会では取り上げなかったカドミウムも含めて、残り2年間での対策技術の実用化をめざして研究に取り組む必要性を確認しました。
なお、このプロジェクトの詳細について知りたい方やパンフレット等の関連資料をご要望の方は、下記までお問い合わせください。
電子メールアドレス: toxpro@niaes.affrc.go.jp