12月18日、つくば国際会議場で、公開セミナー「外来植物のリスクを調べて、その蔓延を防止する」が開催されました。このセミナーは、科学技術振興調整費重要問題解決型プロジェクト「外来植物のリスク評価と蔓延防止策」のアウトリーチ活動として、農業環境技術研究所が主催したものです。
(開催のねらい)
マングースやブラックバスなどさまざまな外来生物による被害を防止するため、「外来生物被害防止法」が今年の6月に施行されました。この法律は、日本固有の動植物の生存、人間の健康、農業生産に脅威となる外来の動植物を対象に、それらの取り扱いを規制します。これまでにリストアップされた規制対象となる動植物には、みなさんがよくご存じの種類が多く含まれ、その数はこれからも増加して行くと思われます。
当研究所では、この法律の円滑な実施に貢献するために、本年度からプロジェクト研究「外来植物のリスク評価と蔓延防止策」を開始しました。この研究では、環境省や農林水産省の担当部局へ、(1)外来植物のリスクを評価する方法、(2)規制すべき外来植物種、(3)被害の大きい外来植物の効率的で安全な防除法などについて、提言して行きます。
本公開セミナーでは、法律の概要をわかりやすくお話しするとともに、外来植物に的をしぼって、さまざまなリスクと防除に関する研究成果を紹介しました。また、多くの参加者と、外来植物の功罪について活発な意見交換を行いました。みなさんからいただいたご意見は、私どもの今後の研究計画の糧として、活かしていきます。
(プログラム)
はじめに: 外来植物に関する研究の目的
藤井義晴(農業環境技術研究所)
1) 特定外来生物被害防止法って何?
小川恭男(農業環境技術研究所)
2) 身近なセイヨウタンポポは実は日本のタンポポとの雑種だった!
井手 任(農業環境技術研究所)
3) 毒のある外来植物やアレロパシーの強い外来植物について
藤井義晴(農業環境技術研究所)
4) もう一つの侵入植物問題 −外来植物がもたらす除草剤抵抗遺伝子−
小沼明弘(農業環境技術研究所)
5) 雑草になる危険性を予測する−日本型雑草リスク評価法の確立をめざして
西田智子(畜産草地研究所)
6) わが国の植物が多様な場所は外国の植物の侵入をガードするか?
池田浩明(農業環境技術研究所)
7) これ以上外来植物を侵入させない −侵入経路を調べて遮断する−
仙田貴之(畜産草地研究所)
8) 侵入してしまった外来植物を防除する方法について
村岡哲郎(日本植物調節剤研究協会研究所)
9) 意見交換 −日本の生態系を守るために今できることは?−
司会: 黒川俊二(畜産草地研究所)
(参加者)
122名(一般18名、行政5名、大学教員6名、学生10名、大学以外の教員3名、農林水産省所管独立行政法人46名、他省独立行政法人8名、職業等を記入されなかった参加者26名)。
(意見交換のあらまし)
年末の忙しい日曜日であるにもかかわらず、幅広い職業の方々に参加していただき、法律(外来生物被害防止法)と外来植物のリスクに関する活発な意見交換を行うことができました。
会場からの質問や意見を幅広くお聞きするため、あらかじめ参加者の方々に質問・意見票を配布しました。30数件ものご質問・ご意見が寄せられ、意見交換のために用意した1時間では対応しきれませんでした。会場で十分な回答や議論ができなかった事項については、プロジェクトのホームページ(http://www.naro.affrc.go.jp/archive/niaes/project/plant_alien/index.html)で対応させていただく予定です。
寄せられたご質問・ご意見の一部を、以下にご紹介します。
1) 一般市民ができる特定外来生物の処分方法を知りたい。
2) 日本産タンポポは、外来種との間に生じた雑種タンポポによって全滅させられるのか?
3) 外来植物が産出するアレロパシー物質は、土壌中に蓄積するのか?
4) 特定外来生物の指定に当たっては、対象となる外来植物がもたらすリスクを科学的に検証するとともに、その植物が発揮する有用性にも考慮して、慎重に決定すべきである。
5) 日本型雑草リスク評価手法は、外来植物の防除プログラムにおける優先順位の決定にも有効に利用できるのか?
6) 日本型雑草リスク評価法とオセアニアの評価法の違いを明確にしてほしい。また、リスク評価を実施した場合、その結果を公開してほしい。
7) 外来植物はかく乱地に多く侵入するというのであれば、かく乱する人間の方に問題があるのではないのか? また、長年放置すれば、外来植物はしだいに消失するのか?
8) 外来植物種子の輸入物資への混入などによる非意図的な導入に対する予防策はあるのか?