生活を取り巻くリスクは多種多様であり、そのリスクの相対的な大きさは時代や生活環境などによって異なるものと認識されている。また、環境、医薬品・食品、近代技術など広範囲の場面で「リスク」という用語は頻繁に使われているが、その概念が一般社会の中で十分に理解されているとは考えにくい。たとえば、市販ミネラル水と水道水の健康リスクを比較する場合は、どちらが大きいかを正確に判断するためのリスク評価方法が必要である。
本書では、「リスクとは、悲観的な結果を及ぼすと予想される有害物に曝露する可能性」と定義し、リスク対象項目について「有害性」、「曝(ばく)露」、「影響」、「影響が生じる可能性」の観点で整理している。さらに、「(有害レベルに達する曝露の)起こりやすさ」と「(深刻性と影響を受ける人数を含む)リスクの影響」をリスクメーターとし「高、中、低」で表示している。下記の48項目について科学的なデータに基づき評価することで、リスクの相対的な大きさが読み取れる。
一例として「太陽放射」の項について。一般社会では、原子力発電、携帯電話、X線など人工の放射線に大きな恐怖を抱いており、天然の太陽放射線は無意識に安全として受け入れられている。しかし、本書で取り上げた項目の中では、太陽放射がもっとも健康リスクが大きいとしている。太陽からの放射線は皮膚ガンの発生、眼や皮膚の免疫システムの損傷を引き起こすなど、非常に危険である。その影響は世界全体に、また、短時間曝露、慢性曝露のいずれでも有害レベルにあり、米国内で年間7,800人が死亡し極めて深刻である。さらに、リスクを削減するため、UV放射のピーク時(午前11時から午後2時)での太陽への曝露防止、日焼け止め剤の使用、帽子・サングラス・防護服の着用、UV放射線量予報をチェックすることなどを提示している。
また、(1)「沈黙の春」で提起された野生生物に生物濃縮性をもつDDTは、人々にとって曝露の可能性や影響がほとんどないため現実には深刻なリスクとは考えられない、(2)水銀は人々が有害レベルで曝露する可能性は非常に低く曝露した場合の影響も深刻ではない、(3)農薬への曝露は広範囲であるが有害レベルでの曝露にならず、深刻な急性、慢性影響を受ける人はほとんどいない、(4)食中毒については病原体の曝露や有害性は高いがその影響は緩慢なため深刻でないと評価している。
このようにリスクを有害性および曝露や影響の程度から相対比較することは、日常生活におけるリスクの低減や健康への配慮を考えるための科学的情報を提供することになると思われる。本書のおわりには、リスクの判断においては毒物学、疫学、統計分析など科学的に解決できないことも多く「科学から得られるものの限界を知っておくことが重要」であると、リスクの多面性や評価の難しさを示唆している。
目次
1 アスベスト
2 水銀
3 鉛
4 大気汚染物質(屋内)
5-1 粒子状物質
5-2 スモッグ
5-3 大気有害物質
6 生物兵器
7 一酸化炭素
8 DDT
9 ディーゼル排気
10 環境ホルモン
11 有害廃棄物
12 焼却炉
13 原子力発電
14 オゾン層破壊
15 農薬
16 放射線
17 ラドン
18 太陽放射
19 水質汚濁
20 事故
21 エアバッグ
22 アルコール
23 人工甘味料
24 手根管症候群
25 カフェイン
26 運転中の携帯電話
27 携帯電話からの電磁波
28 電気と磁場
29 銃器
30 食中毒
31 食品放射線照射
32 遺伝子組換え食品
33 狂牛病
34 電子レンジ
35 自動車
36 スクールバス
37 タバコ
38 抗生物質
39 豊胸手術
40 がん
41 心臓病
42 HIV
43 マンモグラフィー
44 医療ミス
45 太りすぎ/肥満
46 性感染症
47 ワクチン
48 X線