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情報:農業と環境 No.71 (2006.3)
独立行政法人農業環境技術研究所

第23回 土・水研究会 「農作物による有害化学物質の吸収とそのリスク管理」 が開催された

2月22日、つくば農林ホール(農林水産会議事務局筑波事務所)において、第23回 土・水研究会「農作物による有害化学物質の吸収とそのリスク管理」が開かれました。

(開催趣旨)

国内外において、食品の安全性に対する意識・関心が高まっています。カドミウムなどの重金属については、コーデックスで国際的な安全基準の強化が論議され、コメをはじめとして農作物の安全性確保のための取組みが進められているところです。一方、環境残留性の高い化学物質の汚染から人の健康および環境を保護することを目的とした「残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約」(POPs条約)が発効し、残留性の高い有機汚染物質の動態を十分に把握することが国際的に求められています。これらのことから、農耕地土壌中に長期間残留し、農作物に吸収されて食の安全性をそこなう恐れのある有害化学物質については、それらのリスク管理対策を急ぐ必要があります。

そこで、この研究会では、重金属やドリンなどの有害化学物質について、 (1) 行政的な対応、 (2) 農作物による吸収に関する実態の把握、さらには、 (3) 汚染土壌のファイトレメディエーション(植物を用いた土壌修復技術)や化学的洗浄法など新しい手法を応用したリスク管理技術について、最新の情報や研究成果を報告して討論を行いました。

(参加者)

参加者数は261名でした(内訳は、農林水産省から10名、都道府県から101名、大学から25名、民間企業から23名、団体から14名、一般市民1名、他の独立行政法人から35名、農業環境技術研究所から42名)。

(講演など)

1.農作物の有害化学物質のリスク管理をめぐる最近の状況について

瀬川雅裕(農林水産省 消費・安全局)

2.土壌中に残存するドリン類吸収の作物間差異

大谷 卓・清家伸康(農業環境技術研究所)

3.土壌のヒ素汚染と作物による吸収

荒尾知人(農業環境技術研究所)

4.ホウレンソウのカドミウム濃度に関する品種間差異

杉沼千恵子(埼玉県農林総合研究センター)

5.カドミウム汚染土壌のファイトレメディエーションをめぐる最近の研究

村上政治(農業環境技術研究所)

6.カドミウム汚染土壌の化学的洗浄技術と現場適応性

高野博幸(太平洋セメント株式会社)

7.総合討論

(議論の概要)

消費・安全局からの講演に対しては、コーデックスで決まった野菜などのカドミウム基準値に関して農林水産省として国内基準をどのように設定していくのかという質問があり、講演者の回答では、「食品安全委員会」で食品中のカドミウムの許容量が審議される予定なので、その結論を待って検討を進めるということでした。ドリンやヒ素の作物吸収については、吸収された後の植物体内での形態変化について質問があり、ドリンについてはおそらく形態の変化は少ない、ヒ素については詳細は未解明という回答でした。ホウレンソウのカドミウム吸収に関する講演に対して、低吸収品種の開発についての質問がありましたが、種苗会社との関係もありかなり難しいとの回答でした。また、ホウレンソウは露地栽培でもハウス栽培でも品種間差などで同じ傾向が見られるのかという質問について、講演者以外から同じ傾向が見られるとのコメントがありました。ファイトレメディエーションおよび土壌洗浄によるカドミウム汚染土壌の修復技術に関する講演に対しては、実用化する場合のコストの問題、回収されたカドミウムを含む資材の処理問題が質問されました。ファイトレメディエーションでは、コストは19〜25万円/10a/年くらいまで低減でき、また収穫したイネは燃焼またはバイオエタノール化を行うという回答でした。土壌洗浄では、コストは現行の客土より低減し、またキレート資材に吸着させたカドミウムを廃棄物処理またはリサイクル(カドミウム回収)として処理するという回答でした。

総合討議の結論では、今後の国内基準値の設定あるいは新たなリスクの発生に備えて、技術の開発やマニュアルの作成などリスク管理に関する対応が急がれるということになりました。

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