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情報:農業と環境 No.71 (2006.3)
独立行政法人農業環境技術研究所

国際情報: 遺伝子組換え作物の商業栽培状況と通商紛争

NPOアグリバイオ事業団(ISAAA)は、本年(2006年)1月11日に「商品化されたバイオテク作物/遺伝子組み換え(GM)作物の世界情勢:2005年(Global Status of Commercialized Biotech/GM Crops: 2005)」を発表した。この報告書では、遺伝子組換え作物の商業栽培が始まって10周年にあたる昨年2005年の世界の商業栽培面積、栽培国、栽培者数、栽培作物などが集計されている。

報告書によると、2005年の世界の組換え作物の栽培面積は9000万haで、前年よりも11%増加した。商業栽培が始まってから10年間、毎年10%以上増加したことになる。この1年間では発展途上国の栽培面積の増加(630万ha)が先進国の増加(270万ha)を大きく上回り、発展途上国の栽培面積が世界の栽培面積の3分の1以上を占めるようになった。世界の組換え作物栽培者数は前年より25万人増の850万人になり、そのうちの90%は発展途上国の資源不足の農民である。組換え作物は先進国だけで導入が進むとの一部にあった予測に反して、経済的に恵まれない発展途上国の小規模農家で組換え作物の導入が進んでいる状況は昨年の報告書にあるのと同様である。

世界の組換え作物の栽培面積を作物別にみると、ダイズがもっとも広く、次いでトウモロコシ、ワタ、ナタネが続き、これらが栽培面積の大部分を占めている。遺伝子組換えで付与されている特性はおもに除草剤耐性と害虫抵抗性であるが、2005年には、複数の異なった特性を導入した組換え作物、いわゆるスタック特性品種の栽培面積が総面積の10%を占めるようになった。

各作物に占める組換え作物の割合は、栽培面積でみて、ダイズ60%、ワタ28%、ナタネ18%、トウモロコシ14%であり、前年に比べてダイズのみで増加(4ポイント増)がみられた。イランでは害虫抵抗性のイネの栽培が始まったが、これは、組換えイネの最初の商業栽培である。組換えイネは世界の飢餓克服へ貢献できるとして、その商業栽培の開始を報告書では歓迎している。

組換え作物を栽培している国は、前年より4カ国増え、21カ国になった。栽培面積は、米国が最大で、世界の組換え作物の全栽培面積の55%を占め、次いでアルゼンチン、ブラジル、カナダ、中国、パラグアイ、インドと続き、これらの上位7カ国で全栽培面積の98%を占めている。

報告書では組換え作物の商業栽培が順調に拡大しているように述べているが、見方によっては、栽培はいまだに少数の国に限定されているともいえる。組換え作物については、食品・飼料としての安全性や環境への影響に関して一般の人々がもつ懸念が払拭(ふっしょく)されたとはいえない。欧州連合(EU)は、安全性に対する懸念を理由に1998年から組換え作物の輸入を停止した。これに対し、輸出国の米国はカナダ、アルゼンチンとともに、EUの規制は科学的根拠がなく不当だと、2003年5月に世界貿易機関(WTO)に提訴した。

EUの情報メディア「EurActiv.com」などのメディアによると、本年(2006年)2月7日にWTO紛争処理小委員会(パネル)は、EUの遺伝子組換え作物の輸入規制はWTO協定違反であるとの中間報告を関係国(当事者)に通知した。最終報告は3月にも出るが、中間報告の内容が覆る例はほとんどないとされる。

EUの欧州委員会は、WTOからの中間報告通知と同日、「GMO(遺伝子組み換え作物)に関する欧州の規制とWTO」と題するプレスリリースを行った。このプレスリリースでは、中間報告については触れていない(公表できない)が、米国などのWTO提訴をさまざまな面から批判している。EUは安全な組換え製品を禁止していないとして、現に、大量の組換えダイズなど組換え作物・食品・飼料を輸入していると述べている。また、EUが実施している、組換え作物流通のための科学的安全性評価の重要性を強調し、それは「バイオセーフティに関するカルタヘナ議定書」(2003年9月発効)などで認められているものであるとし、この議定書を批准していない米国、カナダ、アルゼンチンの態度に不満を表明している。

わが国は「バイオセーフティに関するカルタヘナ議定書」を批准している。また、わが国では、組換え作物・食品・飼料の栽培・輸入・流通は法律に基づいた安全性審査が前提となっている。農業環境技術研究所では、遺伝子組換え作物の栽培が生態系に及ぼす影響のモニタリングを研究所内の試験ほ場で実施している。ここで得られる調査結果は、わが国の農業への遺伝子組換え作物の導入を検討する上で重要な情報になる。関連する研究情報は 当研究所Webサイト の 組換え体チームのページ (該当するページは削除されました。2010年11月) などに掲載されている。

なお、ここで引用・参照した文書は、下記のWebサイトで公表されている。

・ 商品化されたバイオテク作物/遺伝子組み換え(GM)作物の世界情勢:2005年
(Global Status of Commercialized Biotech/GM Crops: 2005)

要旨(Executive Summary) ISAAA (日本語を含む各国語)

ハイライト ISAAA (英語)

プレスリリース ISAAA (各国語・日本語はない)または翻訳版 バイテク情報普及会 (対応するURLが見つかりません。2010年11月)

・ WTO紛争処理小委員会(パネル)中間報告関連記事 EurActiv.com (英語)

・ プレスリリース「GMO(遺伝子組み換え作物)に関する欧州の規制とWTO」

EU欧州委員会 (対応するURLが見つかりません。2010年11月)(英語)または 駐日欧州委員会代表部 (最新のURLに修正しました。2012年8月)(日本語。ただし、2月末日現在、本文最初の文が「科学者の間には、GMOは本来安全ではないというおおよその合意があるが、」と訳されているが、英語原文では「科学者の間には、GMOは本来危険ではないというおおよその合意があるが、」である。)

・ 生物の多様性に関する条約のバイオセーフティに関するカルタヘナ議定書 外務省

・ 関連記事「2004年遺伝子組換え作物の商業栽培の状況」

農業環境技術研究所 情報:農業と環境 No.61(2005年5月)

・ 関連記事「生物多様性の保全とバイオセーフティの増進 −OECDの政策提言−」

農業環境技術研究所 情報:農業と環境 No.66(2005年10月)

・ 関連記事「FAOの「遺伝子組換え」プレスリリース(2005)」

農業環境技術研究所 情報:農業と環境 No.68(2005年12月)

(企画調整部 木村 龍介) 

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