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情報:農業と環境 No.71 (2006.3)
独立行政法人農業環境技術研究所

論文の紹介: 有機ヒ素化合物ロキサルソンの環境中での動態

Environmental Fate of Roxarsone in Poultry Litter. I. Degradation of Roxarsone during Composting
Garbarino, J. R. et al.,
Environmental Science and Technology, 37(8), 1509-1514 (2003)

ヒ素は世界的に見るともっとも問題になっている有害元素であると言ってよいだろう。海外では、インド、バングラデシュでヒ素汚染が深刻な問題となっており、また内モンゴルなど他の地域でもヒ素汚染が報告されている。日本では、1955年に発生した森永ヒ素ミルク中毒事件、もう少し近くでは1998年の和歌山毒物カレー事件が有名であるが、ごく最近では2003年に茨城県神栖町で中毒が確認された旧日本軍の化学兵器由来と考えられている有機ヒ素化合物が問題になっている。化学兵器由来の有機ヒ素化合物は自然界に存在している有機ヒ素化合物と異なるため、十分な知見がなく、分析法を含め環境中での動態や生態影響、生体毒性などについて、関係機関で研究が進められている。

本論文は、米国で成長促進剤として家禽(かきん)に与えられているロキサルソン(3−ニトロ−4−ヒドロキシフェニルアルソン酸)という有機ヒ素化合物の、環境中での動態に関する論文である。米国では83億羽のブロイラーの約7割がロキサルソンを与えられており(2000年)、そこから出た厩肥(きゅうひ)には900トンのロキサルソン(250トンのヒ素)が含まれている。ロキサルソンは化学兵器由来の有機ヒ素化合物と同じく芳香環を持っているため、その環境動態の研究は化学兵器由来の有機ヒ素化合物の研究にとっても有益な情報を与えると考えられる。

論文によると、ロキサルソンを飼料に添加した鶏の新鮮な敷きわらの中には、ヒ素の大部分がロキサルソンとして存在しており、そのほかに、ヒ酸、ジメチルアルシン酸、亜ヒ酸、数種の未知のヒ素化合物が確認された。この敷きわらに50%の水を加えて40℃の条件で堆肥化すると、3−4週間でロキサルソンのほとんどがヒ酸にまで分解された。アジ化ナトリウムの添加によりこの分解は大きく抑制されたことから、微生物による作用であると考えられた。

敷きわらにさらに多くの水を加えてスラリーにした還元的な条件では、ロキサルソンの分解が加速した。スラリーにしてから24時間後にはロキサルソンは大きく減少し、亜ヒ酸、ヒ酸、未知のヒ素化合物の3種が主要な化学種となり、2週間後にはロキサルソンは検出されなかった。15℃あるいは20℃では、スラリー上澄み中のロキサルソンは30時間で10%が分解したが、40℃では60%が分解し、このことも微生物による分解を示唆した。また腸内細菌科細菌の増殖培地に加えられたロキサルソンは7日で50%が未知のヒ素化合物に分解した。

この論文で示されているように、主要な化学種でさえ構造が不明なものがあるなど有機ヒ素化合物の環境動態は未知な点が多く、さらなる研究が必要であるが、化学兵器由来の有機ヒ素化合物についてもロキサルソンと同様な微生物による分解が起こっていると推測される。

(環境化学分析センター 馬場 浩司) 

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