「日本の将来は明るいか暗いか」の質問に「暗い」と答えた人は18パーセント、「どちらかといえば暗い」と答えた37パーセントの人を合わせると、過半数の人が悲観的な将来を予想しているという(2005年4月読売新聞世論調査)。それかあらぬか、本書は、目次を一瞥(いちべつ)するだけで分かるように、いずれも暗い将来に向かって進んでいる現在の諸現象を描写している。ここに述べられているとおりの将来が現実のものとなるかどうかについてはともかくも、10年後の日本について現時点で見通せるシナリオの1つとして一読することは無駄ではないであろう。
人口減少高齢化社会が現実のものとしてあるなかで、本書もそうであるが、多くの類書が、そのことによってもたらされるであろう種々の断面を描き出してはくれるものの、人口減少高齢化社会そのものの原因がどこにあり、どうした経過をたどってそうなったのか、政府が現在すすめている各種の施策がそれに対してどの程度効果をもたらすのか、などについて知見を与えてくれないので、ただただ不安感を醸成(じょうせい)するばかりである。人口減少高齢化社会の実態を統計資料を用いながら丁寧(ていねい)に説きほぐし解きほどき、無意味な不安感を一掃し、あわせて、新たな経済システムの枠組みを提示している松谷明彦著「人口減少経済の新しい公式」(日本経済新聞社)は良書の一冊として推薦したい。
「地球環境の危機」を論じている第8章では、冒頭に大震災を取り上げ、また感染症を取り上げてこの章をしめくくっていることでは、類書とは異なる目新しさはあるが、疑問が残る感は否めない。せっかくならば、戦争がもたらす資源の浪費など、「地球環境の危機」という枠組みから戦争を取り上げてほしかった。
目次
1 変わる日本社会のかたち
格差の線引き───自由な競争が社会を引き裂く
治安悪化───警官増員するも検挙率あがらず
消費税二けた化───大幅引き上げは必至
地方分権のゆくえ───貧乏自治体から住民が逃げる
老朽化するインフラ───巨額の血税が廃墟列島に消える
2 鍵をにぎる団塊世代
大量定年のその後───700万人が "無職老人" と化す
逃げ切り世代の落とし穴───退職金、企業年金があぶない
第二の人生───世界一長い余生を楽しく過ごす
がん人口急増───団塊世代ががん年齢まっただなかに
貯蓄率低下───「背伸び消費」で団塊が貯金を取り崩す
3 ビジネスマンの新しい現実
「匠の技」の断絶と流出───ものづくり大国の凋落がはじまる
移民開国への土壇場───人材の空洞化は避けられない
訴訟社会の到来───弁護士大増員が係争増加を招く
バブル入社組の暗転───"第二の団塊" に最後の審判が下る
マンション・オフィスビルの供給過剰───都心に不動産暴落の危機
進化するテクノロジー───ロボットが少子化時代の救世主になる
4 漂流する若者たち
Y世代の台頭───成長を信じない若者が新たな文化の担い手に
フリーター500万人時代───定職をもたずに老いる若者たち
労働力の外注化───個人のライフスタイルが働き方を決める
学力の衰退───ゆとり教育と大学全入の弊害が噴出
ひきこもりの高齢化───親の負担から社会の負担へ
5 世代が対立する高齢社会
年金崩壊───約束された給付水準は守られない
縮小する介護サービス───高齢者が日本を脱出する
老人ホーム戦国時代───選択肢は増えるがトラブルも多発
高齢者の都心回帰───大都市郊外の過疎化が深刻に
6 家族の絆と子どもの未来
虐待の連鎖───殴られて育った子が虐待する親になる
教員大量定年───危惧される指導力の低下と教育格差
教育の自由化───競争原理の導入で学校も生徒も淘汰される
子どもの体力低下───2016年オリンピック惨敗の予感
7 男と女の選択
出生率低下───結婚したくてもできない男女が増加
離婚ラッシュ───「年金分割」施行を待っていた妻たち
生殖医療の限界───子の「知る権利」法制化で精子提供者が激減
代理母の功罪───不妊夫婦は海外をめざす
変質する夫婦観───10年後に専業主夫が20万人を突破
8 地球環境の危機
切迫する大震災───30年以内に首都圏直撃の確率は70パーセント
エネルギー危機───激化する資源戦争に新たな展開が
地球温暖化の悪夢───人類による自然資源の浪費がつづく
飽食の未来───食料危機がやってくる
恐怖の感染症───エマージングウイルスが猛威をふるう
9 グローバル経済の奔流
財政破綻へのシナリオ───2010年、国債の大量償還の危険
暴走する金融市場───長期金利の暴騰とハイパーインフレが来る
中国経済の過熱───失速一歩手前までヒートアップ
BRICsの台頭───日本に新しいパートナーができる
10 不安定化するアジア
北のミサイルの脅威───そのときMDは役に立つか
現実化するNBCテロ───試される国民保護法の真価
南北統一する朝鮮半島───統一が新たな対立の構図をつくる
中国共産党崩壊の可能性───揺らぐ一党独裁の正統性