近頃はそれから遠ざかっているが、休みの朝に付近の田舎道を歩くようになってから、路傍の草々に目が向くようになり、わずかではあるが名前を覚えるようになった。それまでは全く関心を持つこともなく、十把一からげに「雑草」とのみ理解していたその世界の扉を本書は一つ一つ開けてくれる。私たちが身近にみることができる雑草の中から個性豊かな50種を取り上げて、著者が言うように、雑草たちの生き方と暮らしぶりをのぞき見る。
著者が好きな花に上げるオオイヌノフグリの名前の由来や学名の由来はもとより、受粉を確かなものとする仕組み、「はびこる」が語源であるという説もあるくらいどこでもよく見かけるハコベに隠された7つの「はびこる」仕組み、やっかいもののカタバミが備えているエネルギーや資源を節約する仕組みなどなど、50種のどれ一つをとっても、頷き、驚き、感心し、納得しつつ、読み進み、読み終わる。
雑草を観察すればするほど、雑草のことを知れば知るほど、彼らの生活ぶりが人間くさく感じられると著者はいう。種類や環境が異なればその生活ぶりは全く違う雑草一つ一つの個性的でユニークな生き方を擬人化し軽妙な筆致で、精密で生き生きと描かれた絵を添えて、綴っている。読後にきっと、本書を手にして、いつも何となく気になっていた路傍の草を確認しに行きたくなること請け合いである。
目次
プロローグ 雑草たちの世界へようこそ
スミレ ――― 野に咲く花のシティライフ
オオイヌノフグリ―――キリストの奇跡が結実した後は?
ハコベ―――七草ハコベの七つの秘密
ホトケノザ―――口から生まれた世渡り上手
スズメノテッポウ―――異能集団は逆境に強い
カラスノエンドウ―――ビジネスライクが引き起こしたしっぺ返し
スギナ―――地獄の底からよみがえった雑草
ナズナ―――だらだらと生き残れ
タンポポ―――ついに勃発したクローン戦争
ハルシオン―――移住者の数奇な運命
オドリコソウ―――芸を盗んだ踊り子の誤算
シロツメクサ―――幸せは踏まれて育つ
スズメノカタビラ―――国際派雑草の成功の秘訣
コオニユリ―――ユリの花の見えない苦労
オオバコ―――この道一筋、踏まれて生きる
カタバミ―――花ことばは「輝く心」の倹約型雑草
ネジバナ―――ひねくれもののねじれた戦略
スベリヒユ―――すべっても祝うよっぱらい草
ハマスゲ―――アスファルトを突き破る底力
コニシキソウ―――地べたを満喫する生き方
ツユクサ―――サッカーチーム顔負けのフォーメーション
メヒシバ―――雑草の女王は記念日がお好き
カラスビシャク―――これが「へそくり」の生活術
タイヌビエ―――効果的に身を隠す方法とは
ウキクサ―――浮き沈みのある浮き草稼業
ヒルガオ―――アサガオだけには負けたくない
カモガヤ―――都会をいろどる牧場の緑
カラスムギ―――東京−大阪間を結ぶど根性
エノコログサ―――逆輸入されたターボエンジン
オオブタクサ―――ミクロもマクロも自由自在
イチビ―――地球をまわってジパングを目指せ
マツヨイグサ―――待つ身のせつなさ、たくましさ
クズ―――もう「くず」とは呼ばせない
ヨモギ―――乾いた街をドライに生き抜く
ハキダメギク―――潜んだ場所がまずかった
カヤツリグサ―――不思議なトライアングルの欠点
ヒシ―――ひしゃげた実よ、大志を抱け
ヘクソカズラ―――止むに止まれぬ乙女の選択
ヒメムカシヨモギ―――自然界の偉大な数学者
オナモミ―――ひっつき虫からのメッセージ
マンジュシャゲ―――死人花に隠された謎
ネナシカズラ―――ああ、あこがれのパラサイト生活
ミズアオイ―――雑草が絶滅する日
ホテイアオイ―――百万ドルの雑草の願い
イヌタデ―――赤いまんまは偽りだらけ
ススキ―――稲より気高いプライド高き雑草
セイタカアワダチソウ―――毒は使いすぎに御用心
ミゾソバ―――自分に似た子を手もとに置く深い理由
ガマ―――カマボコとふとんの共通点とは
ヨシ―――決して悪くは考えない
エピローグ 向上心のない生命はない