大学生の学力低下や理科ばなれが教育現場を中心として深刻な課題と認識されるようになり、その解決方法の模索が続いている。2006年3月に決定された第3期科学技術基本計画でも科学技術による成果が必ずしも社会に還元されていないことが指摘されており、「科学技術創造立国」を国家戦略としておりながら、現実には国民による科学技術への理解と支持が十分でないことを露呈している。
背景には、科学技術に関係する事故の発生、化学物質による環境負荷や地球温暖化問題、論文の捏造、さらに科学技術が産み出したBSEや遺伝子組換えなど新しい問題への戸惑いがある。一般社会では科学技術からの成果に恩恵を感じながらも不信を抱いており、このような状況に若者が敏感に反応しているのかもしれない。
本書は、著者が2000年前後に執筆した科学雑誌への連載投稿文を編集したもので、科学技術と社会との関係が歴史的に転換期を迎えていることを示唆している。今後の科学技術を発展させるため、多くの関連書籍を基にして、わが国における理科教育、科学者の実態、研究体制などを解析するとともに見直すべき課題を抽出し、一般社会と科学技術とが正面から向き合うための方策を提示している。
「理科系はどこへいくのか ─ 日本科学の現場と課題」では、「理系白書−この国を静かに支える人々」(講談社、2003年)と「検証なぜ日本の科学者は報われないのか」(文一総合出版、2002年)を引用しながら、大学の講座制、人事採用、予算配分など多くの場面で、科学者の立場や生活の実態が十分に把握されていないことが問題であり、科学者の現状を知ることが重要であるとしている。また、日本では創造的な研究は評価されない傾向が強く、創造性を涵(かん)養する文化がないことを憂い、日本の科学が豊かに発展するため教育システムのあるべき姿を模索している。
著者は科学/技術史の研究者で、新たな科学技術社会論という分野の確立をめざしており、「現代社会の諸問題を考えるには、科学、技術、社会の相互の関係を、技術にも目配りして、バランスよく考えていくことが必要」と結論している。
目次
まえがき
第1部 科学書を読んで考える科学/技術の21世紀
第1章 迷路の中の科学/技術
1 破壊される知性──── ポストモダンな理数系の現在
2 科学の終焉────あるいは新しい科学の夢を求めて
3 理科系はどこへいくのか────日本科学の現状と課題
第2章 理科系を解体する────理学知・工学知・知識のモード
1 「科学の統一」は可能なのか────モード論と科学の未来
2 失敗から創造へ────工学は失敗から学ぶ
3 誰のためのデザインか────工学知とデザイン
4 環境問題の現段階────地球環境からファクター4へ
第3章 創造性豊かな社会を作るために────歴史からのアプローチ
1 物理学研究の拠点が欧州からアメリカに移った理由────マンハッタン計画と科学
2 日本の近代化は「同種の接ぎ木」
3 移動する創造性────湯浅光朝先生を偲ぶ
第4章 危機に立つ科学史・科学哲学
1 ニュートン復活────『光学』出版300年に寄せて
2 数量化と科学革命────歴史における巨大な構図
3 迷路の中の科学論────科学論は相対主義から抜け出せるか?
4 科学技術と公共性
第2部 科学技術社会論の挑戦
第5章 科学者論は科学者論に留まれるか?
第6章 科学論再考科学における平等と公正
あとがき
出典一覧