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情報:農業と環境 No.75 (2006.7)
独立行政法人農業環境技術研究所

本の紹介 204: 生きる力を育む食と農の教育、嶋野道弘・佐藤幸也 著、家の光協会 (2006) ISBN4-259-54686-4

今の日本は、豊かで便利な国になった。しかし、何か大切なものを失ったとみなが感じている。そのことが、問題として顕著に現れているのが教育であろう。子育てや子どもの教育に関しては、昨今は、本当に大変な時代になっている。何が大変かといえば、それは、本当に大変なことは何かということに、多くの人が気づいていないことである。混迷と危機の時代とも言える。

子どもは本来、さまざまな欲求に満ちている。「生理的な欲求」、「安心の欲求」、「愛情の欲求」、そしてその上にある高度な「知的成長への欲求」である。「食」と「農」は、これらの欲求のすべてを反映できる可能性を持っている。おいしく栄養のある食事、安心な食事、愛情のある食事は、生きる力の基盤であり、それを支える農と共に、子どもの知的で健全な成長に深く関係する。

この本では、上記の点について、具体的かつ専門的に説明がされている。その上で、家庭、学校、農業、地域で何ができるのかを、豊富な実践例を紹介しながら、今後の「食と農の教育」への指針を示している。

昨年「食育基本法」が施行され、国民の食育への関心が高まっているものの、一方では、子どもたちにも糖尿病や高脂血症などの生活習慣病が蔓延しつつある。また国民の日常生活では、料理の食べ残しや食品の賞味期限切れなどで、大量の食物がゴミとして処分されている。その年間量は、カロリーベースでは日本の全食料の25%、金額では11兆円にもなるという。「食育」の問題は、「環境教育」ともリンクさせて、われわれ大人も認識を深めるべき重要なテーマである。否、大人こそもっと真剣に考えるべき緊急課題である。

目次

はじめに

第1章 変質する社会、家庭と子どもたち

1 便利さと物質的な豊かさの中で

2 バーチャル化時代と子ども

3 複雑系社会・乖離社会と子ども

第2章 「食」の崩壊の裏側で

1 食育の時代

2 グローバリゼーションの中の「食と農の乖離」

3 変質する子どもたちや消費者の心身の回復を

4 人間性の復権と「身土不二」

第3章 「生きる力」を育む食と農の教育

1 「生きる力」を育む教育とは

2 学校・家庭・地域の連携による教育

3 ふるさと教育

4 食と農の教育の可能性

第4章 全国に広がるアグリスクール

1 農業、農村を学ぶ環境の厳しさ

2 「子どもの居場所づくり」アグリスクールに集う保護者と子どもたち

3 「JA学童農園推進事業」、「全国ちゃぐりん大会」

4 鳥取県の食と農の教育(アグリスクール)組織

5 消費者、若者、教師、行政が集い協力するアグリスクール

6 アグリスクールは「ふるさとの本」

第5章 第5章 学校給食を農家、JA、地域の共同で

1 星条旗下の学校給食

2 学校給食の現状と問題点

3 岩手県の地産地消と地場産学校給食

4 教育委員会と農政、JAの連携による「食文化」の再生

5 「食は文化」JA教育文化活動と教育・経済の融合

おわりに

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