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情報:農業と環境 No.80 (2006.12)
独立行政法人農業環境技術研究所

農業環境技術研究所リサーチプロジェクト(RP)の紹介(10) 農業環境リスク指標RP

農業環境技術研究所は、中期目標期間 (平成18−22年度) における研究・技術開発を効率的に推進するため、15のリサーチプロジェクト(RP)を設けています (詳細は、情報:農業と環境 No.77農業環境技術研究所リサーチプロジェクト(RP)の紹介(1) を参照してください)。

ここでは、農業環境リスク指標リサーチプロジェクトについて、プロジェクトリーダーが紹介します。

農業環境リスク指標リサーチプロジェクト

農業には作物を生産するという重要な役割がありますが、これに加えて多くの機能があることが知られてきました。たとえば、水田に水を貯めることにより洪水を防止することができる、あるいは、いろいろな生物に食物や生息場所を提供するなどがあげられます。一方、農業活動が周辺環境にさまざまな悪影響を及ぼしていることも否定できません。たとえば、肥料を過剰に使ったために河川や地下水が富栄養化したり、作物を病害虫や雑草から守るために使った農薬がほかの生物に影響したりすることがあります。そこで、わが国の農業が環境へ及ぼす良い影響(便益)や悪い影響(リスク)を評価し、改善することが、将来の農業活動の維持のために求められています。

農業がもついろいろな側面

しかし、こうした便益やリスクは相互に関連しているため、良いとか悪いということを一言で表すことは大変です。そこで、「農業環境リスク指標」リサーチプロジェクトでは、営農管理、土壌保全、水質保全など、さまざまな視点から環境に対するリスクや便益の様子を表す指標(農業環境リスク指標)を作成する研究に取り組んでいます。これらの指標の値は栽培する作物、営農管理方法などにより大きく異なることが予想されます。したがって、これらの指標ができると、指標の値を用いて「環境にやさしい農業」に有効な生産技術を選ぶことが可能になると考えています。また、指標の値の経年変化や地域分布を見ることにより、環境保全型農業の推進に有効な政策の立案に役立てることもできます。

私たち、農業環境リスク指標リサーチプロジェクトが具体的に取り組んでいる研究テーマは、次のとおりです。

(1) 養分からみた指標

現代の農業では作物を生産するために化学肥料が不可欠です。しかし、必要以上の肥料を用いると土壌中に養分が蓄積し、いずれ雨水などによって流亡し河川や地下水を汚してしまう可能性があります。このため、農地における養分の過不足を、さまざまな作物について肥料の使用量と収穫物として持ち出される養分量によって調べ、養分が蓄積しているのかどうか、河川や地下水を汚すおそれがあるかどうかを判断する指標を作成しています。

養分に関する農業環境リスク指標の作成

(2) 土壌保全からみた指標

日本のように降水量が多く、傾斜の大きな農地が多い国では容易に表土が流されてしまいます。表土は養分も多く、根も伸びやすいので、表土が薄くなると生産力が低下します。そこで、雨の多さ、傾斜条件、栽培している作物などの要因から表土流出の危険性を示す指標を作成し、その地理的な分布が一目でわかるようにマップ化を行っています。

(3) 農薬使用からみた指標

省力的な農業のためには農薬の使用が不可欠ですが、環境に対する影響は使用する農薬の特性、使用条件、あるいは、土壌の特性などにより異なります。これらの要因に基づいて魚類や甲殻類など水生生物に対する影響を評価する指標を作成しています。

農薬に関する農業環境リスク指標の作成

(4) 生物多様性を評価する手法の研究

生物多様性を評価するためにさまざまな手法が試みられていますが、まだ不十分です。ここでは、生物間の系統関係に基づいて生物多様性を定量的に評価する手法、あるいは生態システムモデルによって環境改変や生物導入にともなう多様性の変化を評価する手法を研究しています。

農業環境リスク指標RPリーダー 神山 和則
農業環境インベントリーセンター 上席研究員)

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