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情報:農業と環境 No.85 (2007.5)
独立行政法人農業環境技術研究所

本の紹介 231: 土壌を愛し,土壌を守る ―日本の土壌,ペドロジー学会50年の集大成―、 日本ペドロジー学会 編、 博友社 (2007) ISBN 4-8268-0205-6

最近、「身土不二(しんどふじ)」という言葉をしばしば見聞きする。この言葉のルーツは14世紀の中国の仏教書にあるらしい。当時の人が科学的な知識を持っていたわけがないので、当然この言葉は仏教的あるいは哲学的な難しい意味として使われた。しかし、この四字熟語は、土壌の重要性をアピールするには簡潔で絶妙な言葉でもあると思う。

生命は粘土を介して生まれ、土壌を創り、そして土壌に拠って進化してきた。したがって、途中から海へ移動した生物は別として、土壌は陸上生態系の基盤であり、陸上のあらゆる生物の生存にとって欠くことができない物質である。

人類の祖先が類人猿に進化し、森を離れて地面に降りたのは、今からおよそ500万年前とされているが、この時から人間は土壌に密着して生活を始め、また農業を創成して土壌から食料を得る技術を開発した。

土壌というものがこれほど大切な存在でありながら、その重要性について一般人の認識や理解はけっして高いとはいえない。それは、小学校から大学まで、土壌について学校で広く教えてないという今の教育課程にも問題があったが、一方で、土壌学の研究者が平易な言葉で土壌を外に向けて説明してないという現状にも問題があった。

日本ペドロジー学会創立50周年記念として出版された本書は、土壌について、資源としての評価、日本における分類と特徴、考古学的な考察、今後の保全対策のあり方などについて多数の執筆者により多方面から記述されている。とくに、少ないながらも施肥や作物生産などエダフォロジー的な記述が見られることは、部外者にも理解されやすいだろう。

ただ、願わくば、冒頭に書いた「身土不二」の精神をもっと入れて、日本の歴史や文化さらには人の健康まで含めて、人間の生活における土壌の重要性についても記述し、外へ向けてアピールしてほしかったというのは、評者の欲張りな要求であろうか。

目次

第1章 土壌圏と土壌資源

1. 歴史的自然体としての土壌

2. 土壌生成因子と日本の土壌の生成環境

3. 土壌の機能

第2章 わが国における土壌の生成分類学的特徴ならびに分布

1. 概説

2. ポドゾル性土

3. 褐色森林土

4. 赤黄色土

5. 黒ぼく土

6. 停滞水成土

7. 沖積土

8. 泥炭土

9. 暗赤色土

10. 未熟土

11. 造成土

第3章 日本の土壌の生成特徴と利用

1. 北海道地方の土壌

2. 東北地方の土壌

3. 関東地方の土壌

4. 中部地方の土壌

5. 近畿地方の土壌

6. 中国地方の土壌

7. 四国地方の土壌

8. 九州地方の土壌

9. 沖縄・小笠原の土壌

第4章 土壌に残された記録

1. 植物ケイ酸体と環境復元

2. 花粉分析と環境復元

3. 考古学と土壌

第5章 土壌の危機と土壌保全

1. 危機に瀕する土壌

2. 土壌調査と土壌保全

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