第4次評価報告書をまとめている気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、2月初旬の第1作業部会報告書(自然科学的根拠)、4月初旬の第2作業部会報告書(影響・適応・脆弱性)に続き、4月30日〜5月4日にバンコクで開催した第3作業部会第9回会合で、第3作業部会報告書(気候変動の緩和策)を受諾した。この第3部会報告書は、気候変動の緩和策のポテンシャルとコスト、今後の見通しについての最新の知見をまとめている。
まず、温室効果ガス全体の排出量は、1970年から2004年の間に約70%増加し、二酸化炭素に換算して490億トンに達している。農業部門からの排出量は、1970年から1990年の期間に27%増加したと見積もられる。また、現状のままでは、今後の数10年も引き続き増加すると予測される。
そのような中、エネルギー供給、運輸、建築、産業、農業、林業、廃棄物の各部門において、2030年までにさらなる削減を可能とする緩和策が検討された。それらを導入した場合、その削減可能量は、予想される世界の排出量の伸びを相殺し、さらに現在の排出量以下にできる可能性がある。農業分野に関しては、土壌内炭素吸収量の増加やバイオエネルギー利用などによって温室効果ガスの排出を削減できる可能性があり、とくに土壌に炭素を隔離するための農地管理の重要性が指摘されている。農業分野での削減量は、23〜64億トン/年と見積もられ、低コストで大きな貢献が可能であると述べられている。
ところで、農業環境技術研究所では、農林水産省委託プロジェクト「地球温暖化が農林水産業に及ぼす影響の評価と高度対策技術の開発」において、農研機構と協力して、農耕地と草地における土壌炭素の隔離技術の開発に向けた研究に取り組んでいる。この研究で得られる成果は、報告書が指摘する農業分野での排出削減に貢献できることになることから、研究のいっそうの発展を図りたい。
次に、地球全体として2030年に削減できる量は、二酸化炭素換算で、1トンあたり20米ドルの費用をかけた場合には、年90〜170億トン、同様に100米ドルの費用をかけた場合には、年160〜310億トンに達すると見積もられた。また、排出削減の取り組みの結果として大気汚染が緩和され、そのことによる短期的に見た健康上の利益が、緩和にかかるコストをかなり相殺できると予想している。
さらに、2030年以降については、これまでに研究されたシナリオを整理し、2050年の二酸化炭素排出量(2000年比)と平均気温上昇との対応関係を6段階に分けて提示している。産業革命前からの平均気温の上昇を2.0〜2.4℃の範囲にとどめるためには、2015年までに二酸化炭素排出のピークを迎え、2050年の二酸化炭素排出量を2000年より50〜85%削減する必要があること、逆に2050年の二酸化炭素排出量を2000年の30%削減から5%増加にすれば、排出量のピークは2010〜2030年に迎え、2050年の平均気温は産業革命前から2.8〜3.2℃上昇することが示された。
第3作業部会の最終日(5月4日)には同地でIPCC第26回総会が開催され、これまで各作業部会が提出した第1〜第3作業部会報告書が承認された。今後は、11月にスペイン・バレンシアで開催されるIPCC第27回総会において、統合報告書が承認・公表される予定である。
なお、今回の報告について、より詳細な情報を知りたい方は、IPCCのWebページ(英語)( http://www.ipcc.ch/ )、経済産業省のWebページ ( http://www.meti.go.jp/press/20070507001/20070507001.html (該当するページが見つかりません。2012年7月) )、環境省のWebページ ( http://www.env.go.jp/earth/ipcc/4th_rep.html )をご覧いただきたい。