作物の生産には、化学肥料や有機質肥料が必要であることはいうまでもない。ただし、必要以上に肥料をやり過ぎると、作物の生育や品質が低下するばかりでなく、余分な肥料成分が雨で流されたり空気中に揮散したりして、環境負荷の原因となる。したがって、農業現場においては、こまめにリアルタイム診断をしながら適正な施肥を行うことが重要である。
本書『リアルタイム診断と施肥管理』は、著者の長年にわたる農業現場での研究や経験に基づいて書かれた実用書である。著者は埼玉県の農業試験場と農林総合研究センターにおいて、水稲、野菜、果樹などの施肥について幅広く研究を続け、その成果のエッセンスを本書にまとめた。
内容は、(1) 現状の施肥と土壌管理の問題点、(2) リアルタイム診断技術の必要性、(3) リアルタイム診断の方法および各園芸作物への応用技術、(4) 養液土耕栽培の施肥技術および被覆肥料による全量基肥栽培の実際、(5) 有機物の施用と土壌肥沃度の向上について、図表、イラストや写真をまじえながら、分かりやすい文章で具体的に解説されている。
医師が人の病気の治療にあたる時には、まず、病状や健康状態の診断から始める。農業における作物栽培においても、この手順は同じであろう。
本書では、土壌養分や作物体養分の採取法について、さらに、診断のための試験紙や簡易測定器の使い方について、ていねいに説明される。また、測定法だけでなく、診断結果に基づいた具体的な施肥技術が各作物ごとに示されている。
最後の第5章には、有機質肥料の必要性が述べられている。偏狭な「有機農業推奨論」ではなく、科学的なデータに基づいて、著者は化学肥料と有機質肥料併用の有効性を説いている。
本書は、農業関係の生産者をはじめ、指導者や研究者の手引き書としても利用できる。また、これから新たに就農する初心者にも、分かりやすい参考書として利用されると思われる。
目次
第1章 今日の施肥と土壌管理をめぐって
1. 土の実態はどうなっているか‐不足から過剰が問題に
2. pHを最適に保つ
3. EC値から硝酸態窒素含量をみる限界点
4. リン酸の過剰と対策
5. 塩基バランスの乱れ
6. 塩類蓄積の悪循環
7. 作物別施肥の課題
第2章 リアルタイム診断技術の開発
1. 動的な養分を対象とした診断手法の開発
2. どのような作物を対象とするのか
3. リアルタイム診断成立条件と基準値設定の考え方
4. リアルタイム診断のための簡易測定器具
第3章 リアルタイム診断による施肥管理
1. リアルタイム栄養診断
<果菜類>
<葉菜類(キャベツ)>
<花き>
<果樹>
2. リン酸を指標としたリアルタイム栄養診断
3. リアルタイム土壌溶液診断
4. 実際の診断手順と施肥改善事例
5. リアルタイム診断で野菜の品質を診断
第4章 リアルタイム診断を生かした施肥技術
1. 養液土耕栽培
2. 養液土耕栽培の養水分管理の実際
3. 被覆肥料を用いた施肥法
第5章 土づくりと有機物施用‐生育の土台づくり
1. 地力と腐植
2. 有機物の分解と蓄積
3. 有機物の施用と効果
4. 有機質肥料は化学肥料の代替ができるのか