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情報:農業と環境 No.96 (2008年4月1日)
独立行政法人農業環境技術研究所

公開セミナー 「外来植物のリスクを調べて蔓延を防止する ―最終報告と今後の展望―」 が開催された

平成20年2月17日(日曜日)に、神戸市のポートアイランドにある神戸コンベンションセンター (神戸国際会議場) において、公開セミナー 「外来植物のリスクを調べて蔓延を防止する ―最終報告と今後の展望―」 を開催しました。参加者は148名で、会場の収容人員一杯となる盛況でした。

農業環境技術研究所では、科学技術振興調整費重要課題解決型プロジェクト 「外来植物のリスク評価と蔓延防止策 」 を、平成17年度から平成19年度まで実施しました。今回の公開セミナーは、平成20年3月で終了したこの研究プロジェクトの最後のアウトリーチ活動として、これまでの成果をとりまとめて発表したものです。

今回の公開セミナー会場は、日本有数の貿易港である神戸港をひかえ外来植物の侵入しやすい環境にある神戸市でした。セミナーの第一部では、「関西地域における外来植物問題」 と題して、地元の研究者3名に神戸 ・ 関西地方における外来植物問題を紹介していただきました。まず、兵庫植物誌研究会の水田光雄氏に、「神戸周辺における帰化植物の実態」 と題して現状に関する発表をお願いしました。水田さんは在野の外来植物研究者で、20年以上の経験を持っておられ、シャゼンムラサキやハリゲナタネ、アメリカウンランモドキなど20種以上の新しい外来植物のお話を聞くことができました。

次に、「寄生植物の生態と防除〜その脅威と防除について〜」 と題して、杉本幸裕神戸大学農学部教授に、新たに侵入すると問題となる寄生植物ストライガについてご自身の研究を中心に説明していただきました。杉本先生はアフリカでこの危険な外来植物の研究をしておられますが、これが今後日本に侵入しないように注意を喚起 (かんき) されました。

最後に、同じく神戸大学農学部の伊藤一幸教授に、「水草を中心とした関西の問題侵入植物」 と題して発表いただきました。伊藤先生は6年前まで農環研で研究しておられた有数の雑草学研究者です。今回は、熱帯性のランタナは体内のアントシアニンを増加することで温帯に適応できるように進化し、分布を拡大していること、地球温暖化で熱帯性のシュロが増加していること、また、オオサンショウモ、ボタンウキクサ、アゾラの越冬性などによる危険性が増大していることなど、興味ある研究を紹介されました。

第二部では、プロジェクトの成果を、3人のサブリーダーにわかりやすく説明していただきました。まず、「現在、日本にはどのような外来植物が蔓延し、これから何が問題となるか」 と題して、農環研の山本勝利、楠本良延氏がまとめました。次に、「外来植物のリスクをどのように評価するか〜総合的リスク管理に向けて〜」 と題して、サブグループ2のリーダーである畜産草地研究所の黒川俊二氏に発表いただきました。最後に、「蔓延してしまった外来植物をどのように防除すればよいか」と題して、蔓延防止チームのサブリーダーである日本植物調節剤研究協会研究所の村岡哲郎氏に講演していただきました。

最後に、藤井研究リーダーが研究全体をとりまとめ、残された問題について討議しました。研究成果として、外来植物の侵入リスクには、3つのリスク、すなわち、外来植物自身の種類・特性のリスク、侵入経路のリスク、侵入場所・場面の3つがあることがはっきりしました。そして、「非意図的な侵入をどう防ぐかが重要」であること、おもな侵入経路は、穀物や牧草の輸入によるものであることが判明しました。しかし、この経路は現在の植物防疫法では検査されないため、外来雑草の種子が国の境界を素通りしてどんどん導入されることが分かりました。このため、関係省庁にこの問題の解決方策を提言していきたいと考えています。

また、本プロジェクトの成果として、「外来植物が、侵入後に進化する」ことが、セイヨウタンポポにおいて明らかになりました。これは現在もっともホットな生態学上の問題であり、進化する外来植物をどのように管理するか、さらに研究を深化させる必要があると思われます。

また、本プロジェクトでは、外来植物のリスク評価に関して、評価法を開発したり、外来雑草種子を判別する世界規模のデータベースを完成させたり、アレロパシーに関する世界でもっとも精緻 (せいち) なデータベースを作成しました。今後はリスクの評価ばかりではなく、ベネフィットとの関係を研究する必要もあると考えます。

最後に、特別ゲストとして、本プロジェクトの運営委員であり、環境省の特定外来生物等専門家グループの植物部会長を務めておられる角野康郎神戸大学教授に、「外来植物研究の課題と展望」と題した研究全体へのコメントをしていただきました。

当日は、環境省野生生物課の担当官や国土交通省で河川敷での外来植物の駆除を担当しておられる研究者も来場され、地元からも、環境問題や緑化・農業に関係された方ばかりでなく、自然保護活動をされている方々、学生さんなど、多くの参加者の皆様と、外来植物の功罪について活発な意見交換を行うことができました。この公開セミナーでの質疑応答については、農環研Webサイト で公開する予定です。また、これまでに実施した8回の公開セミナーについても紹介していますので、ご興味のある方は、ぜひご参照下さい。

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