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情報:農業と環境 No.96 (2008年4月1日)
独立行政法人農業環境技術研究所

第24回気象環境研究会 「2007年夏季異常高温が水稲生産に及ぼした影響を検証する」 が開催された

埼玉県熊谷市と岐阜県多治見市で日本の最高気温を更新する40.9℃が記録されるなど、昨年(2007年)8月から9月は、日本の広い範囲で異常高温に見舞われました。こうした異常高温は、これまで顕在化していなかったイネの高温不稔が起こりうる温度域にありました。

そこで、農業環境技術研究所は、農研機構 作物研究所および中央農業総合研究センターと協力して、関東・東海地域に北陸地域を加えて緊急調査を実施しました (2008年3月28日プレスリリース 「農環研などが2007年夏季異常高温下での水稲不稔率の増加を確認」 を参照)。

さる2月27日、農業環境技術研究所大会議室において開催した第24回気象環境研究会では、この緊急調査の結果を報告し、2007年夏の異常高温が実際にどの程度の不稔を誘発したか、被害の程度には温度以外のどのような要因がどのくらい影響していたか、気温の上昇が地域ごとの水稲収量にどの程度のインパクトを与えうるのかなどについて議論しました。

当日の参加者は165名でした。その内訳は、行政組織から5名、国・独立行政法人研究機関から29名、公立の試験研究機関から67名、大学から9名、民間団体・企業から、あるいは個人としての参加が23名、農業環境技術研究所から32名でした。

講演者と講演内容

1. 今川俊明 (農環研): 緊急調査の背景と目的

昨年公表されたIPCC第4次報告、農林水産省地球温暖化対策総合戦略 (ページのURLが変更されました。2014年12月) 、および 農林水産研究開発レポート No.23 で取りまとめられている近年の温暖化傾向、温暖化の農業への影響例や将来予測、水稲への温暖化影響に関する研究が紹介された後、緊急調査の背景と目的が説明されました。

2.西森基貴 (農環研): 2007年夏季の気象概況と気候の長期的変化から見たその特徴

2007年は高温と変動の大きな夏と特徴付けられるが、その原因は通常の猛暑の気圧配置ではなく、風が弱くヒートアイランド影響が現れやすい型での高温が主流であったこと、長期的には日本付近での梅雨前線の活発化と北太平洋高気圧の強化など、温暖化時に予想される姿に類似していたともいえることが報告されました。

3.佐藤正康 (農林水産省統計部): 2007年産水稲作柄の概況―温暖化の影響の検証―

2007年の全国の水稲の作柄は、関東以西において高温による登熟への影響がみられたものの、全国平均では作況指数は99、10アール当たり収量は522kg、収穫量は870万5,000トンであったこと、登熟期間の温度上昇幅とその間の最低気温に基づいて、地域単位で収量等への影響が解説されました。

4.石郷岡康史 (農環研): 2007年8月の関東・東海地域における農業気候資源的特徴

気候資源的な指標からは、8月に35℃以上の極端な高温の出現が多かったが、30℃以上の高温は過去と比較してそれほど多くなかったこと、広く栽培されているコシヒカリを例にとると、出穂のピークを過ぎた時期に高温期が出現したため、出穂期の高温による悪影響は回避された可能性があることが報告されました。

5.長谷川利拡 (農環研): 2007年の夏季異常高温が関東・東海地域の水稲稔実に及ぼした影響

関東・東海の5県で実施した調査から、8月中旬の異常高温は不稔を誘発したが、これまでのチャンバー実験から推定されるよりも影響は小さかったこと、高温不稔の発生程度は低窒素水準で助長される可能性が示唆されたこと、不稔率は多くの品種で、出穂時期の最高気温との相関より穂温との相関が高い傾向があったことが示されました。

6.松村 修 (農研機構): 2007年北陸地域の米品質に影響を与えたいくつかの要因について

北陸地域では、2007年度には高温不稔現象は認められなかったが、出穂後30日間の平均気温が26℃以上の場合、品種によっては整粒率が低下すること、白未熟粒などによる品質低下と、籾数過多、窒素栄養不足、根機能低下などの作物側の要因、堆肥施用や作土深などの営農的な要因が関係していることが示されました。

7.近藤始彦 (農研機構): 過去数年間の品質変動要因の解析

2001年から5年間の水稲作況標本地点データを解析した結果、乳白粒の発生には登熟期の低日射や出穂前の高温に関係していること、基白粒と背白粒の発生には登熟期の高温が比較的強く関与し、低水分条件によるデンプン合成能の早期低下が発生に関与している可能性が報告されました。

8.桑形恒男 (農環研): 2007年夏季の異常高温イベント時における水田微気象の特徴

開花時の穂温は最高気温に比べて低めに推移し、異常高温イベント時も多くの地点では湿度が低かったため穂温は34〜36℃程度だったと推定されること、茨城では最高気温はそれほど上昇しなかったが、都心からの風と高い湿度によって穂温は高めだったと推定されることが報告されました。

これらの発表の後、調査を実施した5県の研究者から、昨年度の異常高温が各県の水稲の作柄と品質に及ぼした影響について報告いただいた後、質疑を通して以下のことが確認されました。

最高気温を記録した時期に出穂・開花した水稲では、場所によっては20%を超える籾(もみ)に実がならない不稔が発生しました。しかし、関東・東海の多くの地域では、7月下旬から8月上旬にすでに出穂・開花をむかえていたこと、農業環境技術研究所が開発したモデルによる推定では、水田が広がる農村地域の気温や穂温、および水稲群落内の温度がそれほど高くなかったことから、今年の作況には大きな影響は出ませんでした。また、品質についても7月が低温であったために、乳白米などによる品質低下が抑えられたと考えられます。一方、不稔の発生に対しては品種や施肥量が、品質の低下に対しては日射量や蒸散量が、それぞれ大きく影響することが考えられます。

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