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情報:農業と環境 No.101 (2008年9月1日)
独立行政法人農業環境技術研究所

第5回国際線虫学会議 (2008年7月、オーストラリア(ブリスベン)) 参加報告

4年ごとに開催されるスポーツの祭典、オリンピックが8月に北京で行われましたが、「国際線虫学会議」は6年ごとに開催され、世界の線虫研究者が集う線虫学の祭典です。今回の第5回国際線虫学会議は、私にとっては、2002年にスペインのカナリア諸島で開催された第4回以来の、ひさびさの海外出張でした。

オーストラリアは入国にビザが必要、こちらは航空券を購入する旅行代理店に任せておけば問題ないのですが、ほかの国と比べて検疫が非常に厳しいのが印象的でした。食品、木製品などの持ち込み禁止は知られているかもしれません。入国カードのチェック欄に「農業地帯に居住」という項目があり、チェックしてみたところ、植物検疫のカウンターに呼ばれました。「私は農業関係の研究者で、この靴で畑に入ることもある。」 と説明すると、カウンター内に靴を持ち去って5分ほど何かやっていました。おそらく靴底(土)と中のほこり(雑草種子)のクリーニングをやってくれたのでしょう。オーストラリアは固有の動植物が多いので、その保全のため厳しい検疫を行う意味はあるのでしょうが、わが国では、土壌はともかく雑草種子などフリーパスです。

写真1

写真1 ブリスベン川越しにサウスバンク方面を望む
赤い花はブーゲンビリア、水上バス(これでホテルから会場に通う参加者も多かった)が航行している。

ブリスベンは、クイーンズランド州の州都でオーストラリア第3の都市、オーストラリア東海岸の中ほどに位置しています。リゾート地として知られるゴールドコーストの入口ですし、郊外にあるコアラが抱ける動物園などでも知られています。南緯は約28度ですから奄美大島あたりに相当、7月は真冬ですが、平均最高気温19℃、平均最低気温14℃という過ごしやすい気候でした。国際線虫学会議の会場 Brisbane Convention and Exhibition Centre があるブリスベン川の南岸、対岸に市の中心部を望むサウスバンクと呼ばれる一帯は、1988年に開催された万国博覧会の跡地が 125.5 ha の広大な公園として整備されているほか、ブリスベン博物館や美術館もあって、市民の憩いの場となっています。

写真2

写真2 オーストラリアペリカン

国際線虫学会議は、14日(月)8:30 開会、18日(金)17:40 閉会の5日間の日程で進められました。中日の16日は Mid-Congress Tour で、コースによっては農業地帯の視察もあったのですが、私は、Local environments: from mountain forest to coastal beach を選び、その日だけは、オーストラリアの自然にひたってきました。バスの窓からは牧場に入り込んだカンガルーが見え、目的地の国立公園では、雨のやみ間に照葉樹の原生林で森林浴、帰り道に立ち寄った海辺ではアジサシの仲間やペリカンなど間近に見ることができました。

写真3

写真3 ポスターのわきで昼食 カーペットは線虫模様!

国際線虫学会議の口頭発表は、朝に全体会議、休憩をはさんで、おおむね午前の残りと午後(前・後半)は4会場に別れて行われました。4会場とも同じフロアで、ロビーが受け付け、ポスター会場 兼 昼食(立食)会場というコンパクトな配置で、講演を聞いたり、ポスターを見たりするにはきわめて効率的にしつらえてありました。私は、自活性線虫の生態や線虫の分類・系統関係のテーマを中心に発表を聞きましたが、セッションのすべてが線虫関連、興味あるテーマのセッションがつねに行われているので、ずっと会場に居続けでしたが、飽きるということがありませんでした。専門的になり過ぎるのでセッションの内容には踏み込みませんが、一つだけ、先進国、発展途上国を問わず、世界中で線虫学の後継者と研究予算の確保が課題になっているとの訴えが多く、どこでも悩みは同じと、考えさせられました。なお、日本線虫学会は、今回の開催地として立候補してオーストラリアなどに敗れたのですが、2014年の第6回国際線虫学会議の開催をめざすことを閉会式で表明しました。

6年前には緒についたばかりだった DNA 塩基配列による分子分類・系統解析がすっかり普通の手法となり、近年の学問の進歩には目を見張るものがあります。その点、国際学会への出席が毎年でも可能な仕組みになったことはよかったと思います。

(生物生態機能研究領域 荒城雅昭)

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