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情報:農業と環境 No.103 (2008年11月1日)
独立行政法人農業環境技術研究所

2008 FOSS4G会議 (2008年9月、南アフリカ共和国(ケープタウン)) 参加報告

9月28日から10月3日まで、南アフリカ共和国のケープタウン国際会議場で開催された「2008 FOSS4G 会議」に参加しました。この会議の名称となっている FOSS4G は、「Free and Open Source Software For Geospatial」の頭文字を取ったものです( 「4」 は、英語で同じ発音の 「for」 を意味しています)。フリー・オープンソース・ソフトウェアとは、自由に入手でき、改良や再配布が可能なソフトウェアのことで、なかでもデジタル地図やカーナビなどでも使用される GPS など地理空間情報を扱うソフトウェアのことを FOSS4G と呼びます。

ケープタウン国際会議場の入口(写真)

写真 2008 FOSS4G会議の会場となったケープタウン国際会議場

この会議は、FOSS4G の開発や普及を目的として米国で設立された OSGeo 財団が主催して、年に一度開催されています。南アフリカ共和国で開催された今回は、世界各国から約 500 人 (主催者発表) が参加しました。一般の学会に比べると、大企業からベンチャー企業まで、各国の行政関係者、国際機関、さらにはフリーのプログラマーなど、参加者が非常に多彩であることが、この会議の特徴です。また、Google マップや Google Earth など、地理空間情報の利用に力を入れている Google 社がスポンサーとして参加し、基調講演を行ったことも、会議の特徴を示しています。そのため、発表の内容も、学術研究の成果や行政への FOSS4G の利用の報告だけでなく、ソフトウェア開発の現状や最前線に関する報告が多くありました。

2008FOSS4G会議でのワークショップのようす(写真)

写真 ワークショップのようす

報告者らは 「歴史的農業環境閲覧システム」を FOSS4G を用いて構築し、Webサイトで公開しています。報告者はこのシステムについてポスター発表を行いました。会議参加者からは、システムの構築だけでなく、120 年前に作製された日本の地図そのものにも興味を持っていただき、貴重な意見交換ができました。また、発表の中には、本システムで使用している GeoServer というソフトウェアの開発者による発表もあり、今後のシステムの改良について貴重な情報を得られました。さらに、南アフリカにおける都市再開発やボランティア活動などに FOSS4G を活用した事例など、さまざまな興味深い発表がありました。また、会議では発表だけでなく、実際にソフトウェアを使用してみるワークショップやラボといわれるものが開催されました。ソフトウェア開発者や熟練した利用者による直接の指導を受けることができるので、技能向上には貴重な機会でした。

さて、今年の会議では、SOS (Sensor Observation Service) と呼ばれるサービスについての発表が多くありました。これは、野外に設置したセンサーから気温や大気汚染、河川流量などの情報を収集し、それに基づく警報を発信する技術です。これらの技術を農地における気温や降水量の管理などに応用することで、より効率的な農業生産に寄与することが期待できます。また、センサー情報とGPSによる位置情報を組み合わせることで、鳥獣害防除などへの応用が考えられます。また、WPS (Web Processing Service) についての発表も多くありました。これは、現在は地図を表示するだけの Web-GIS を、さまざまな分析を行えるように拡張するものです。現在はまだ限られた人だけが使用している GIS 分析を多くの人が利用できるようになれば、さまざまな研究分野への貢献が期待されます。このように、この会議において技術開発の最前線の情報を収集し、一歩先の研究の方向性や可能性を探ることができました。

FOSS4G は、さまざまな分野で、さまざまな立場からの活用が進められており、農業環境研究、さらには農業生産の現場での応用が可能と考えられます。とくにインターネットを利用した情報の発信や収集についての研究成果は、私たちの研究を外部に公開する際に活用できると考えられます。今後とも FOSS4G の利用と情報収集とを進め、研究の推進と現場での利用に活用したいと考えています。

(生態系計測研究領域 岩崎亘典)

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