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情報:農業と環境 No.118 (2010年2月1日)
独立行政法人農業環境技術研究所

土壌侵食:土がなくなっていく
(常陽新聞連載「ふしぎを追って」)

土は毎年少しずつ生まれてくるとともに、雨水や風に運ばれて、その土地からなくなることがあります。これを土壌侵食といいます。

土壌侵食によって栄養分が豊富な農地の土が失われると、作物がよく育たなくなります。アジアやアフリカでは、土壌侵食によって作物を栽培できなくなって放棄される農地が多く、食料危機の要因の一つとなっています。

また、土壌侵食によってその土地の外へ出た土壌粒子は、河川を通じて湖沼や海洋の底に堆積します。土壌粒子に吸着されていた栄養分がそこで溶け出して、水質の富栄養化の原因となり、魚や貝などの生物に悪影響を及ぼすこともあります。さらに、湖沼や貯水池に堆積した土で貯水量が減ると、水力発電や洪水調節の障害となります。このほか、風によって大気中に舞い上げられた土壌粒子が、人間や動物の健康に影響を及ぼすこともあります。このように土壌侵食は作物の生産に影響するだけでなく、環境や健康にも影響があるため、侵食を極力少なくする必要があります。日本は雨が多く、傾斜した土地も多いなど、土壌侵食が起こりやすい自然条件におかれています。農業環境技術研究所では、全国でどのくらいの土がなくなっているのか、どのようなところで土壌侵食が発生しやすいか、そして、土壌侵食を防止したり軽減したりするためにどのような対策をとればよいかを研究しています。

ダイコン畑の土壌侵食 (写真)

ダイコン畑の土壌侵食

その結果、日本全土では1年間に900万トン、1平方メートル当たり42グラムの土が失われていること、特に土壌侵食が多く見られるのは、西南日本の雨が多い地域の、傾斜した、黄色土や赤色土の畑であることが分かりました。また、土壌侵食を防止するには、たい肥や土壌改良資材を施用して土壌の性質を変えると効果があることを明らかにしました。

そうした中で水田は、傾斜がなく、栽培期間中は土の表面に田面水があるなど、土壌侵食が起きにくい特性があります。このことは、日本の稲作開始から3000年に渡って安定した農地が維持されている理由の一つと考えられます。

(農業環境技術研究所 研究コーディネータ 谷山一郎)

農業環境技術研究所は、一般読者向けの研究紹介記事「ふしぎを追って−研究室の扉を開く」を、24回にわたって常陽新聞に連載しました。上の記事は、平成20年11月26日に掲載されたものです。

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