私たちは大気中の酸素を体内に取り入れ、二酸化炭素を排出して呼吸をしていますが、足元にある土壌も呼吸をしています。
土壌の中にはたくさんの微生物 (細菌やカビなど) がいて、土壌有機物を分解して二酸化炭素を出しています。また、植物の根からも二酸化炭素が放出されています。これらをあわせて土壌呼吸と呼んでいます。
土壌呼吸を含む農耕地の炭素循環について考えてみましょう。大気中の炭素 (二酸化炭素) は光合成によって作物に取り込まれます。その一部は、作物の呼吸によって大気へ戻りますが、残りは作物内にためられます。収穫後の茎や葉、あるいは根などの作物残渣(ざんさ)がそのまますき込まれたり、あるいは堆肥として施用されると、作物中にあった炭素は土壌有機物として土の中に蓄積されます。この土壌有機物が土壌微生物によって分解されると、炭素は二酸化炭素として大気へ放出されます。このようにして炭素は大気、作物、土壌の間を循環しているのです。
二酸化炭素は地球温暖化の原因とされる温室効果ガスですから、その発生を減らすための努力が国際的に進められています。図から分かるように、土壌に供給される炭素の量が土壌微生物による分解で放出される量より多ければ、土壌中に有機炭素がたまっていき、大気中の二酸化炭素を減らす効果があります。作物残渣や堆肥など有機物を上手に農地土壌に入れて土壌に炭素をためることが、地球温暖化を緩和する技術の一つとして注目されています。
しかし将来、温暖化が進んだ場合、温度の上昇によって農耕地土壌の微生物が活発に働き、土壌呼吸によって二酸化炭素が大量に放出される心配もあります。土壌は、地球上で海洋に次いで2番目に大きい炭素貯留庫で、大気中の約2倍、森林など植物バイオマスの約3倍もの炭素をたくわえているのです。
農業環境技術研究所では、農耕地からの二酸化炭素の発生を減らす技術を開発し、その効果を評価する試験を行っています。また、土壌有機物の分解が温暖化によってどう変化するかを調べるため、実際に土壌を温める野外実験を行っています。さらに、気候の変化や管理の違いによって農耕地の土壌炭素の量がどう変化するかを、コンピュータで予測する研究も進めています。
土壌がたくわえている炭素の約10%は農耕地土壌にあります。地球温暖化を防ぐために、農耕地土壌の有機物は重要な存在の一つなのです。
(農業環境技術研究所 物質循環研究領域 岸本文紅)
農業環境技術研究所は、一般読者向けの研究紹介記事「ふしぎを追って−研究室の扉を開く」を、24回にわたって常陽新聞に連載しました。上の記事は、平成21年1月14日に掲載されたものです。
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