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農業と環境 No.120 (2010年4月1日)
独立行政法人農業環境技術研究所

土の緩衝作用:作物を守るヘルメット
(常陽新聞連載「ふしぎを追って」)

野球のバッターがヘルメットをかぶるのは、ピッチャーが暴投してボールが頭に当たった時、その衝撃(しょうげき)をやわらげて頭を守るためです。このようなヘルメットのはたらきを緩衝(かんしょう)作用といいます。

私たちのまわりにある 「土」 にも、自然界の衝撃(ストレス)をやわらげる緩衝作用があり、作物の生育を守っています。

水に、薄い塩酸(酸性)または水酸化ナトリウム(アルカリ性)をほんの少しだけ入れると、水のpH値は大きく変化します。しかし、前もって水の中に土を混ぜておくと、pH値はほとんど変りません。これは、土にイオンを吸着するはたらきがあるためで、化学的な緩衝作用といいます。たとえば酸性雨が降っても、土のpH値が大きく酸性に傾くことはなく、作物の根は守られます。

土は、自然界のストレス(病原菌、酸性雨、大雨など)から作物を守っています(図)

大雨が降って土が水びたしになっても、雨がやんでしばらくすると土の中の水は一定の量に落ち着いて、空気と水のバランスが保たれます。逆に、しばらく雨が降らなくても土はある程度の水分量を維持して、作物の根に水を供給します。このため、土に植えた作物は枯れなくてすむのです。これは、土に物理的な緩衝作用があるからです。

土の中にはカビやバクテリアなど数千から1万種類の土壌微生物(どじょうびせいぶつ)が住んでいます。1グラムの土の中には1億個体以上の微生物がひしめき合っていますが、これらの微生物のうち特定の種類だけが増えすぎたり、またいくつかの種が絶滅したりすることはほとんどなくて、一定のバランスが保たれています。これは、個々の微生物が、自らの住み心地に合った場所を選択するという生物的な緩衝作用がはたらくためです。

このように土には素晴らしい緩衝作用があり、そのおかげで農作物がよく育って、私たちの大切な食べ物が生産されています。しかし、この土の緩衝作用が弱まったり大きなストレスが繰り返されたりすると、作物の生育にいろいろと困った問題が生じてくるのです。

(農業環境技術研究所 元 土壌環境研究領域長 小野信一)

農業環境技術研究所は、一般読者向けの研究紹介記事「ふしぎを追って−研究室の扉を開く」を、24回にわたって常陽新聞に連載しました。上の記事は平成20年10月15日に掲載されたものです。

もっと知りたい方は・・・

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