皆さんの足もとにある土の中にはたくさんの微生物が生息しています。ある人が調べたところ、1グラムの土の中には、細菌だけでも、数億〜数十億匹もいたそうです。この数は、調べる場所や気候で大きく変わりますが、細菌のほかに線虫などの小動物やカビの仲間も入れると膨大な数の微生物が土の中に生息していることは確かです。
このような微生物は、地球上の生物にとってなくてはならない重要な役割を担っています。彼らは総がかりで、さまざまな生物の死骸(がい)をえさとして分解し、二酸化炭素などのガスや水、あるいは植物の生育に必要な養分などに変えてしまいます。小さな微生物たちは、炭素や窒素など自然界の物質の循環に、とても大きな役割をはたしているのです。
土の中の微生物には、人間にとって特に有用なものもいます。通常、微生物は生物の死骸や枯葉などを好んで分解するのですが、中にはダイオキシンやPCB、残留農薬など、人間が合成した有害化合物を分解する変り者もいます。このような微生物は、化学物質で汚染した土壌を修復するための、バイオレメディエーションと呼ばれる環境浄化技術に利用されています。
また、土の中での生存競争はとてもきびしいので、ほかの微生物をやっつけるための物質を生産する微生物もいます。
人間は、抗生物質と呼ばれるこうした物質の中から、多くの医薬品を開発してきました。
さらにこれらの微生物の中には、植物と共存して、植物の生長を助けるものもいます。大豆などの根によくみられる「こぶ」には根粒菌と呼ばれる細菌がすんでいて、空気中の窒素から作った養分を植物に供給し、おいしい豆を作るために一役買っています。
農業環境技術研究所では、土の中にすむ微生物のさまざまな働きに着目し、農地にすむ微生物がメタンなどの温室効果ガスを発生するのを抑える技術や、人間の役にたつ微生物を探し出して、その能力を最大限に引き出すための技術を開発しています。
(農業環境技術研究所 生物生態機能研究領域 藤井 毅)
農業環境技術研究所は、一般読者向けの研究紹介記事「ふしぎを追って−研究室の扉を開く」を、24回にわたって常陽新聞に連載しました。上の記事は、平成20年12月3日に掲載されたものです。
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