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情報:農業と環境 No.112 (2009年8月1日)
独立行政法人農業環境技術研究所

微生物: 未知の世界の生きものたち
(常陽新聞連載「ふしぎを追って」より)

微生物は、名前のとおり、とても小さな生き物です。

「細菌」や「カビ」と聞くと、多くの人が 「気持ち悪い」 と言います。でも本当は、地球上に住む生物は、微生物のおかげで生きていられるのです。植物は枯れると分解されて次世代の植物が生長する養分となりますが、この枯れた植物を分解して土に返しているのは、微生物です。もし微生物がいなかったら、地球上は枯れた植物でいっぱいになるでしょう。

イネの葉に住んでいる細菌(寒天培地で培養中)(写真)

イネの葉に住んでいる細菌
(寒天培地で培養中)

微生物は私たちの生活にも役立っています。たとえば、お酒やパンを作る時に使う 「酵母」 は微生物ですし、病気を治すために開発されたペニシリンなどの抗生物質も、微生物から見つかっています。食卓に乗るシイタケなどのキノコも、実はカビの仲間なのです。

ところで、これらの微生物を私たちはどのくらい理解しているのでしょうか。実は、私たちは地球上の微生物のほんの一部しか理解していないのです。たとえば土の中に住む細菌のうち、実験室で培養できる細菌は、全体の1%程度と推定されています。残りの99%は、種類や性質がほとんどわかっていません。さらに、植物の上に住む微生物にいたっては、その割合すらわかっていません。

農業環境技術研究所では、イネ、ムギ、トマトなどの作物の表面に住んでいる細菌の種類と性質を調べています。面白いことに、植物の種類によって優勢な細菌が違っていました。

たとえばトマトで優勢な細菌は、トマトの葉や花に多いトマチンという毒素に耐えられる種類でした。トマチンを分解する細菌も見つかりました。トマトが毒素を作るように進化する過程で、微生物もトマトと共存したり、利用して生き残るための性質を進化させたのかもしれません。

植物の特徴 (毒素の生産など) とそこにいる微生物の性質を調べると、それぞれの微生物がどのような役割をしているかがわかります。今まで知られていなかった微生物の特殊な能力を利用して、私たちの生活に役立てることもできるでしょう。未知の世界の生きものたちの研究が進められています。

(農業環境技術研究所 生物生態機能研究領域長 對馬誠也)

農業環境技術研究所は、一般読者向けの研究紹介記事「ふしぎを追って−研究室の扉を開く」を、24回にわたって常陽新聞に連載しました。上の記事は、平成20年11月5日に掲載されたものを、常陽新聞新社の許可を得て転載しています。

なお、本記事の執筆者(對馬誠也)は、現在、農業環境技術研究所 農業環境インベントリーセンター長です。

もっと知りたい方は・・・

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