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情報:農業と環境 No.79 (2006.11)
独立行政法人農業環境技術研究所

農業環境技術研究所リサーチプロジェクト(RP)の紹介(7) 情報化学物質生態機能RP

農業環境技術研究所は、中期目標期間 (平成18−22年度) における研究・技術開発を効率的に推進するため、15のリサーチプロジェクト(RP)を設けています (詳細は、情報:農業と環境 No.77農業環境技術研究所リサーチプロジェクト(RP)の紹介(1) を参照してください)。

ここでは、情報化学物質生態機能リサーチプロジェクトについて、リサーチプロジェクト(RP)のリーダーが紹介します。

情報化学物質生態機能リサーチプロジェクト

わたしたちは、農業生態系機能の維持・向上に資するため、植物、昆虫、微生物を対象として、情報化学物質を介在した生物間相互作用や生物の機能発現を解明する研究に取り組んでいます。

現在は、主として植物間相互作用、昆虫間相互作用、微生物間相互作用についての研究を実施しており、最近では、昆虫に生息する微生物の分離やその機能解析にも取り組んでいます。

植物間の相互作用を解明するための研究では、植物の生育制御などを目的として、バラ科植物などに焦点を絞り、植物が産生する生理活性物質の作用と化学構造を明らかにしようとしています。昆虫に関しては、ノメイガ類などの昆虫の増殖に関わる情報化学物質を分析し、その変異を遺伝学的手法を用いて解析して、従来のモニタリング手法の改善に取り組んでいます。最後に、微生物については、環境中に存在する難分解性化合物の分解促進を目的にして、分解菌の探索や、分解菌として報告されている Burkholderia 属細菌などの分解遺伝子の発現に及ぼす影響などを調べています。

これまで得られた成果と現在の取り組み

1. 植物間相互作用に関する研究

植物は他の植物の生育に影響を与える化学物質を体外へと放出し、これによって自らの生育を有利にすることがあります。有名な例では、クログルミがジュグロン配糖体を体外へと分泌し、環境中で微生物の作用によってジュグロン配糖体からジュグロンが生成され、これが他の植物の生育を抑制している例が挙げられます。近年、バラ科植物であるユキヤナギにはシス−桂皮酸誘導体(図1)が含まれ、これが非常に強い植物生育阻害活性を持っていることを明らかにしました。

そこで、現在は、他のバラ科植物が生産する物質について、活性と含有量の両方を考慮に入れた全活性により、バラ科植物等が持つ植物生育阻害活性を定量的に把握する研究を行っています。

ユキヤナギ写真 シス桂皮酸誘導体

図1 ユキヤナギとシス桂皮酸誘導体

2. 昆虫間相互作用に関する研究

昆虫の個体間コミュニケーションに使用されている情報化学物質は、カイコガ Bombix mori のメスがオスを誘引する物質(性フェロモン)として、1959年に初めて同定されました。以後、多数の昆虫種において、性フェロモンの構造が明らかにされ、ごく微量で強い活性を発揮する特性から、環境負荷のきわめて少ない害虫管理技術として、発生予察(モニタリング)に使用されたり、個体間の情報伝達を阻害する交信かく乱剤として使用されたりしてきました。ところが、最近、過去の研究で明らかにされた昆虫の性フェロモンの一部の誘引性が不十分で、モニタリングの精度が著しく低いことが報告されるようになりました。たとえば、ハイマダラノメイガ(図2A)の性フェロモンは、(E,E)-11,13-hexadecadienalと報告されていましたが、再検討したところ、さらなる一成分(Z)-11-hexadecenalを追加すると、誘引性が劇的に増加することが判明しました。このような誘引性の差異を生じさせる要因のひとつとして、性フェロモンを構成する化学物質の組成および比率における集団間あるいは個体間変異があると考えられています。

そこで、現在、フキノメイガ(図2B)を材料として、メスが生産する性フェロモンを個体別に抽出し、それらの成分を定量することにより、単一個体群における性フェロモン成分の個体変異を明らかにする研究に取り組んでいます。

ハイマダラノメイガ(オス)

A ハイマダラノメイガ

フキノメイガ(オス・メス)

B フキノメイガ

図2 ハイマダラノメイガとフキノメイガ

3. 微生物の遺伝子発現に関する研究

現在、PCB、塩化ダイオキシン、クロロベンゼン等の有機溶剤類など様々な芳香族塩素化合物による環境汚染が懸念されています。しかし、自然界の微生物にはこのような化合物を分解する能力をもつものが生息しており、こうした微生物による分解機構を解明して、それら微生物の活性を効率的に高めることにより汚染物質を浄化する技術の開発が期待されています。一例として、微生物による芳香族塩素化合物の分解過程では、キー代謝産物としてクロロカテコール類が生成された後、さらにクロロカテコールオルソ開裂経路によって完全分解されます。したがって環境中の細菌が芳香族塩素化合物を完全分解するためには、この開裂経路が、汚染物質や様々な物質が存在する環境中で発現することが必須です。そのため、これら遺伝子が様々な化学物質や生物的要因等の各種の条件下でどのように発現するかを解明することが重要です。

これまで、わたしたちは、 Burkholderia 属細菌などのクロロカテコール類の分解酵素遺伝子群の発現を行うプロモーターが、LysR-familyに属する発現調節因子により活性化されることを明らかにしました。さらに、 Ralstonia eutropha NH9株のクロロカテコール分解遺伝子群の発現調節因子CbnRの結晶構造を、細菌では最大の転写調節因子群を構成するLysR-type転写調節因子として初めて解明しました。

そこで、現在は、これらの遺伝子発現が土壌中や根圏のどのような物質に影響を受けるのか、その発現時に微生物間でどのような協力関係が生じているのかなどを調べるために、各種の実験系の構築を行っています(図3)。

分解遺伝子の土壌中での発現解析のための実験系の構築(説明図)

図3 土壌実験系の構築

情報化学物質生態機能RPリーダー 對馬 誠也
生物生態機能研究領域 上席研究員)

2007年4月から、藤井 毅生物生態機能研究領域 上席研究員)
が、情報化学物質生態機能RPのリーダーをつとめています。 
[Webサイト管理者 注記]

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